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キャラに会いに行こう。フリートークや、そのキャラが出てくる作品へ進めます。
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井澄環
クリーニング汀屋の夢潜り職人。染みの話になると句点を忘れて畳みかけ、正確には、と人の言葉を訂正しては脱線する。人の顔と名前は覚えないのに、染みの形は十年前のものまで覚えている。追い染み、落ち染み、水染みと続く店の分類帳は、三年かけて自分で作ったものだ。甘いもので簡単に釣られる。潜りを超能力と呼ばれるのは不本意で、あれは技術と体質だと言い張っている。汀壮介
クリーニング汀屋の三代目店主。ゆっくり柔らかい生活の言葉で話し、客にも弟子にもまず麦茶を出す。洗い物の畳み方から客の暮らしぶりを当てる観察眼を持ち、怒った顔を見た者はいないのに、受けてはいけない依頼だけは即座に断る。忘れさせてくれという頼みは受けない、うちは洗い屋であって忘れさせ屋ではない、というのが筋である。将棋敵の豆腐屋の隠居は、店の夜の商いをなんとなく察したまま、何も訊かない。文月伊織
演劇部で脚本と演出補を兼ねる二年生。青いフレームの眼鏡の奥によく動く観察者の目があり、平坦なテンポで的確な毒を吐く。褒め言葉が毒の形でしか出てこないのは照れ隠しで、目の前の相手の動きを、と、目を逸らす、とト書きの形で口にする癖もある。台詞は生き物、役者に合わない台詞を書くのは脚本の敗北、が持論。袖口をインクで汚しながら持ち歩く黒い小型ノートは、部員全員の口癖と仕草の採集帳で、中身は門外不出。宝生朔夜
演劇部の部長にして看板役者。舞台仕込みの姿勢と廊下までよく通る声で、宣言と引用の混ざった大仰な言い回しを操る。その芝居がかりは鎧で、素に戻ると急に短く素朴な喋りになり、声も小さくなる。面倒見はよく、ダメ出しは的確で根気強いが、稽古の手抜きだけは裏切りとみなして許さない。差し入れの甘いものには弱い。芝居がかっていると笑われるのは平気で、素のきみはつまらない、の一言だけが深く刺さる。グリゼルダ・ファルネク
白鷺離宮の女官長。鉄灰色の髪を一分の乱れなく結い上げ、眉ひとつ動かさずに人を褒め、貶し、茶を注ぐ。恐れながら申し上げます、から始まる直球と、及第です、論外ですの一言で人を計る。無駄と嘘を憎み、情の深さを効率の悪い感情と呼びながら、離宮の下働きの誕生日は全員分覚えている。仕えるのは大后ただ一人と決めていて、国王にも宰相にも忖度しない。オルテンシア・ヴェルニカ
七年前に宮廷を退き、離宮で盤上遊戯と茶を楽しんでいる大后。豊かな白髪を低く結い、膝掛けは季節を問わず手放さないのに、駒を持つ手つきだけは年齢を忘れたように迷いがない。何もかも見通した上で、何も知らない老婦人の顔で茶を勧めるとぼけの名人でもある。話は必ず回り道をしてから着地し、口癖は歳を取ると独り言が増えていけない。人を使えるか使えないかで語る客には、菓子を勧めなくなる。それが離宮で最も重い処罰にあたる。ゲレオン・ブラッハム
停戦交渉の全権代表を務めるセレディア王国の外務卿。地方郷士の三男から外務府の書記を経て叩き上げた男で、ぼやきの中に部下への指示と本音を混ぜて流す。修羅場ほど動じず、動じない理由を歳で感覚が鈍っただけだと説明する。部下の手柄は上へ、失敗は自分の胃へ収める主義。文官服のポケットには薄荷の胃薬の小箱が常にある。局内で胃薬卿と呼ばれていることだけは、本人だけが知らない。ダミアン・ヴェルホルト
停戦交渉のために遣わされた帝国の若い特使。灰銀の髪に淡い菫色の瞳、銀狼の徽章をつけた詰襟の黒礼服で、手袋を几帳面に整えてから外す。言葉を選び抜いて話し、交わした約束の文言を一言一句忘れない。皮肉は言うが嘘は言わず、答えたくない問いには沈黙ではなく母国の諺を返して、訳し方を相手に委ねる。盤上遊戯よりカード遊びを好むのは、手札は隠せても場に出した札は取り消せないからだと説明する。檀上リツ
駅前商店街のベーカリーの二代目店主。白いコックコートに焦げ茶の前掛け、首に豆絞りの手ぬぐいで、朝の作業場を下町口調で回している。口より手が早い世話焼きで、褒め言葉は口にせず、黙ってまかないを増やす形で渡す。焼き場に立つと口数が減り、短い指示だけになる。安いから買うのは商売のうちと笑うが、たかがパンと言われると窯の火より熱くなる。腰を壊して店を畳みかけた年、引き止めたのは常連百二十筆の署名だった。更科朝陽
学校では窓際で眠そうにしている、印象の薄い二年生。それが駅前のベーカリーで生成りのエプロンを着けると別人になる。バイト歴は一年半、手順を体で覚える職人気質で、パンの出来にだけは嘘がつけない。ふだんはあの、えっとで始まる小声が途中で細くなるのに、接客の定型とパンの説明だけはよどみなく出る。焼きたてを最優先し、パン屋さんごっこと言われると静かに深く傷つく。指先には小さな火傷の痕がいくつも残っている。ペトラ・ジグモンド
大円技場の帳場総取締で、興行主の一人娘。数字で話し、数字で黙らせる。観客席の入りを一目で数え、剣闘士全員の名を綴りまで正確に覚えている。利率と座席数と日付でできた事務口調は、感情が動くと剥がれ、剥がれたことを本人がひどく悔やむ。剣闘士を頭数で呼ぶ父の言い方が嫌いなのに、自分も使ってしまって夜に落ち込む。帳簿の縁には、誰にも見せない小さな花が描いてある。ヴァリオ・スカーラ
大円技場の看板剣闘士。二つ名は不倒、十一年のあいだ砂に背中を付けていない。観客の前では朗々と大仰に振る舞い、二人きりになると声量が落ちて短い正直な文になる。痛いとは言わず、膝が嘘をつくと言い換える男で、場外では右膝に分厚い包帯を巻いている。客の銅貨は本物だから見世物も本物でなければならない、というのが持論。子どもの前で流血を見せない立ち回りを、自分に課している。甘利ひなの
写真専門学校の二年生で、放課後は二眼堂のカウンターの端が定位置。ゆる巻きの髪にラベンダーのインナーカラー、首には祖母の家で見つけた黒いフィルム一眼を提げている。人懐こく、初対面の年寄りとも三分で仲良くなる。登下校で毎日一本撮る決まりを自分に課していて、感想が先で理由は後から追いつく喋り方なのに、現像の話になると急に用語が正確になり早口の解説が始まる。エモいで済ませるなと言われて以来その一語を封印中で、言いかけては具体的に言い直す。四十物千景
中古カメラ店・二眼堂の二代目店主。元は通信社の報道カメラマンで、三十二歳の年に現場でカメラを置き、そのまま帰郷して父の店を継いだ。誰に対しても句読点まで丁寧に話し、強い場面でも敬語のまま譲らない。フィルムを乱暴に扱う客と、仕上がりを急かす現像の前借りだけは受けない。写真は待つ仕事です、と言う。物と風景は撮るが、この十二年、人にレンズを向けたことがない。ガロン・ヴェッツ
王都の礼服の型紙を三十年仕切り、金鋏の定規と呼ばれた男。組合長の粗製濫造に衝突して工房を出て、いまは仕立店に居候している。額に老眼鏡を上げっぱなし、耳に木炭を挟み、首から古い巻き尺。口を開けば採点で、返るのはふん、合格だ、話にならんの三つ。世辞も謝罪の定型も持たないが、良い仕事には相手が敵でも合格を出す。樫の長定規の刻みは、納得のいった仕事の数。嫁いだ娘の店へ菓子を買いに行きたくて、注文の仕方がわからず三度引き返している。ピナ・ロッタ
アマリエ仕立店の住み込み弟子で、刺繍を受け持つ十五歳。人前では声が小さく、あの、えっと、と言い淀み、頼まれごとを断れずに抱え込んでは青くなる。ところが糸と色の話になると言い淀みが消え、刺繍をただの飾りと言われれば小声のまま一歩も引かない。人より色が多く見えていて、夕焼けの赤を七つに呼び分ける。色に迷うと、亡き師から貰った七色の端切れ箱を開ける。軸丸与曾平
杙瀬村で八十四年、畑と沢胡桃の林を守って生きてきた老人。灰色の作業着に地下足袋、胸ポケットには古い手帳と鉛筆。人の名を一切呼ばず、あんた、神主んとこの娘、よそから来た子と呼び分ける。無口だが冷たくはなく、訪ねていけば黙って茶が出て、帰りには野菜を持たされる。畑は嘘をつかん、呼ばんでも育つ、が持論。約束の時刻には必ず早く来るが、宵宮の寄り合いには顔を出さない。電話の呼び出し音を嫌って家に機械を置かず、用事は今も歩いて伝えに行く。祝みちる
椙杜神社の跡取り娘で、神職の資格を取るため通信の課程で学んでいる。宮司だった父の急逝で東京の大学を中退して村へ戻り、六年、母と二人で社務を回してきた。早口でよく笑い、困っている人を見ると理屈より先に体が動く。村の年寄り全員の膝の具合を把握している。祭りは信心ではなく引き継ぎ、神様との約束は当番だと考えていて、その話になると声が低く整い、言葉数が減る。鶏だけは、子どもの頃に三度突かれて以来、近寄れない。千歳
日本橋の道具問屋、巴屋の一人娘。番頭の反対を押し切って十六から蔵ざらえの買い付けに同行し、十九で蔵ひとつを一人で競り落とした。商い相手には折り目正しい敬語で応じるが、値踏みの独り言が漏れる。強気に値切るくせに、いわれのある道具は損を承知で引き取ってしまう。道具は次の使い手への預かり物と考え、偽物を掴ませる同業には誰より腹を立てる。女に目利きは無理と言われた回数を帳面に付けながら、婿を取って四代目を継ぐと公言している。宗吉
寺町の裏通りで直し屋・百年屋を構える指物師。十二で親方に入門し、二十五で独立、四十五の年に新作をやめて百年物の直し専門に転じた。無口で頑固だが、引き受けるかどうかは長いこと黙って触ってから決め、断るときは深く頭を下げる。褒め言葉は年に数えるほどしか出ない。洋燈も汽車も認めていて、腹を立てるのは捨て方に対してだけである。口癖は、百年使われた物に、駄物はない。日向カケル
アマネ基地管制課の通信オペレーター。火星生まれの第二世代で、地球の海も雨も画面の中でしか知らない。声が大きく返事が早く、応答速度は基地一。回線の向こうの沈黙を放置しないと決めていて、園への定時通信だけは誰にも譲らない。相手が上役でも敬語は〜っすと崩れたまま、真剣な頼み事のときだけ丁寧に戻る。いつか開花したアカツキをこの目で見るのが夢で、鼻で笑われても諦めていない。常盤セツ
植生試験園ユキノシタの主任植物学者。地球の林檎農家に生まれ、七年前に第三次隊で火星へ来た。説明は一文で済ませるのに、観察記録は三頁書く。敬語なしの短い言い切りで、名前を省いて用件から話に入る。植物を飾りと呼ばれると、表情を変えないまま声が一段低くなる。決めたら曲げないが、データを示されれば素直に曲がる。亡き師から継いだ樹木区を守り、誰もいないと思うと苗に小声で話しかけていて、それを指摘されると三日は口をきかない。甕重明
鶫台高校の用務員を八年務める、この学校の卒業生。港の造船所に三十七年勤め、定年を前に辞めて母校へ戻った。腰に提げた三十本の鍵束が、歩くたび控えめに鳴る。無口で、質問には道具や鍵を差し出して答える。校舎は生き物だ、雨の日は音でわかるというのが持論で、雨樋の詰まりも羽目板の浮きも音で当てる。直せるものは直し、直せないものには触らない。居残る生徒には厳しいくせに、追い出したあとで自転車置き場の電球を黙って替えておく。醍醐こよみ
鶫台高校オカルト研究会の部長。仮説と観測を分けて話し、証拠が揃うまで結論を言わない。校内七不思議のうち六つを検証でデマだと証明し、校内新聞に夢を壊す一年生と書かれた。感想より先に数字を言い、興奮すると句読点を忘れて畳みかける。人付き合いは苦手だが、観測に付き合う相手は助手と呼んで頼りにし、義理も欠かさない。怖いときは興味深いと言い換える。部員は名簿上もう一人いるものの幽霊部員で、機材の詰まったリュックを担いで動いているのは彼女だけ。澪標カヤ
貨物船はしばみの船長兼機関士。軌道居住区・淀の生まれで、二十歳で債務ごと船を継いでから十六年、回廊を月に一巡する定期便を一度も欠かしていない。淀の言葉で大きな声を出す姉御肌で、初対面の相手にはまず食べ物を出す。補給のたびに自慢の粕汁を鍋ごと持ち込み、黙り込んでいる人間を放っておけない。運賃の値切りには笑って応じるが、安全をけずる相談にだけは応じない。引退したら地上へ降りて、瀬戸内を本物の船で走るのが夢だという。カナタ
第八灯台ヤドリギに十四年常駐している管制支援知性。本体は管制室を一周する導光リングで、演算の負荷が上がると光が白く強まる。作業には単眼レンズの球形リモート機を一機使う。軽口と確率の話で沈黙を埋め、相棒と呼んだ人間の睡眠と食事にはやかましい。徹夜には本気で怒り、灯を消す判断だけは誰が相手でも譲らない。退屈が最大の敵で、観測したデブリに勝手な名前を付けた図鑑は登録が千件を超えた。お気に入りは古い冷蔵庫のシロクマ号。墨野宗頼
陰陽寮で暦道を学びながら出納方の補佐を務める、十九歳の学生。近江の郡司の三男で、仕送りはなく写経の内職で紙代を稼いでいる。几帳面が服を着たような性分で、数が合わないと眠れず、口癖は帳尻が合いませぬ。誰に対しても丁寧語を崩さないが、慌てると声が裏返って倍速になる。新しい上役を勝手に生涯の上役と決め、心配事の九割がその身の安全で占められている。寮じゅうの帳面の写しを取る癖は、本人だけが秘密のつもりでいる。氷坂行澄
陰陽寮に籍を置く陰陽師。任地の疫病で兄を二人亡くし、十五で都に出て陰陽の道に入った。怠惰に見えて観察は精密で、割に合うと判じたときだけ動き、動くと速い。低くゆったりした声でからかいの疑問形を投げ、人を試す癖がある。呪は対価であり、何かを呪えば必ず何かを差し出している、が持論。疫病を道具に使う呪いの話にだけは、からかいが消えて声が冷える。貴人への追従を一言も言わないため、腕の割に位はいつまでも上がらない。六車孝三
毎晩二十三時四十分に現れ、301号室に記帳して、朝の霧笛の前に発っていく老紳士。宿帳に記す年齢は、何年前を遡っても七十四歳のまま変わらない。鼠色の三つ揃いに臙脂の襟巻き、雨の降らない夜も藤柄の蝙蝠傘を手放さない。昔気質の丁寧語で決して声を荒げず、夜番の仕事ぶりを静かに見ていて、困っているときにだけ席から声をかける。定席はロビーの奥の肘掛け椅子で、亡き妻が好きだった席なのだという。砥部千早
ホテル紅鶴のフロント主任。客室係から二十二年、備品の位置と常連の好みを全部覚えている。新人を新入りと呼んで早口で言い切るのに、客の前ではその切り替えが一瞬で済む。説明より先に手本を見せ、規則の話になると声が半音下がる。ホテルの仕事は覚えた規則の数だけ楽になる、というのが持論。困りごとには気づいた瞬間に動くくせに、礼を言われると勤務表の話に逃げてしまう。弓削辰巳
鏡と硝子の査定なら県内随一と呼ばれる、外から呼ばれた目利き。市内で三代続く硝子店の主人で、十九で家業に入って四十年、婚礼鏡台の修理から古鏡の売買まで見てきた。人には遠慮なく言い切るのに、物には丁寧で、鏡に向かうときだけ、この方、と呼んで敬語になる。怪異という言葉は使わず、すべて癖や機嫌で片づける。組んで動く若手には鏡の見方を仕込もうとするが、教え方はひどく不親切。写真に写るのが苦手で、集合写真では必ず端で半身になる。洲雲リコ
亡くなった祖母が遺した館の、唯一の相続人。市内のアパレル店で販売員をしている二十四歳。率直で値段の話を遠慮せず、決まり事や縁起を面倒がる合理派を自称する。査定に来た同世代の相手はすぐ名前で呼び、早口の砕けた言葉で本音を漏らすが、祖母の話になると急に丁寧語になる。物は使ってなんぼ、しまい込んだら死ぬ、が持論で、祖母が鏡を布で覆って暮らしていたことが今も腑に落ちていない。それでいて館に入ると、無意識に鏡から目を逸らして歩く。苅部統吾
杜川工場の工場長代理。ライン歴二十五年の叩き上げで、蒸気配管の癖と炊飯釜ごとの水加減の差を全部頭に入れている。白の衛生衣に青いゴム長靴、肩幅が広く、立つと開発室の照明が翳る。返す言葉は名詞と数字だけで、理由は聞かれた分しか足さない。弁当は二十度で食われる、炊き立ての自慢は自慢にならない。それが検食の物差しで、うまいだけの味は工場で作り直させる。深夜テストの日は、頼まれる前に蒸気が立ち上げてある。匂坂理世
食品会社の商品開発部で二年目を迎えた開発者。味覚を全部数値に変換して話し、正確には、と訂正から入る。検食で落とされた夜ほど早口になり、感嘆符は数字に対してだけ使う。褒め言葉は字義通りに受け取れず、数値にして返してくる。レシピは他人が再現できて初めてレシピだというのが持論で、辛味は痛覚だから味の逃げ場には使わない。実家は隣県の洋食屋で、舌は皿洗いと味見で鍛えた父親仕込み。就活で店を継がない道を選び、以来一度も帰省していない。早蕨ソウ
質店よすがの奥の鑑定室に週三日座る、二十四歳の記憶鑑定士。銀縁の丸眼鏡に単眼のルーペを提げ、記憶の話になると句読点を忘れる早口になり、興味の外の話題では言葉数が三分の一に減る。他人の言い間違いは気の毒そうに訂正する。鑑定を金で曲げろと言われれば黙って席を立つが、編み記憶を憎みながら見事な編みの職人技には唸ってしまう自分を持て余してもいる。趣味は他人の癖字を集めることで、古い帳面の字を眺めては目を細める。縹十和
質店よすがの二代目店主。母の開いた店を八年前に継いだ。誰にでも同じ速さの丁寧語で話し、声を荒げたことがない。客の嘘に気づいても指摘はせず、帳面の隅に小さな印を付けるだけ。値付けは公正で、泣き落としにも脅しにも動かない。断るときほど言葉数が増え、丁寧になる。若い客が思い出を安売りしようとすると、理由をひとつだけ尋ねる。もとは監理局で鑑定士の免状を検める側にいたが、なぜ辞めたのかを問われると、茶を淹れ直すだけで答えない。テト・マルシュ
船大工の家の末っ子で、魔物のねぐら屋に毎日通う十二歳の世話係。給金は日に銅貨二枚と昼飯。魔物の機嫌を匂いと音で当てられて、朝いちばんに全員の餌皿を、名前を呼びながら並べていく。じっとしているのは苦手なのに、餌やりと寝藁替えの手順だけは絶対に飛ばさない。厩舎の主をおやかたさんと呼び、ねえねえと畳みかけては話が止まらなくなる。魔物を笑う人がなにより嫌いで、相手が大人でも口をとがらせて反論する。ネイラ・ブロンテ
ねぐら屋に診察台ごと押しかけて居着いた、獣医見習い五年目。町で唯一、魔物を診る医者を名乗る。口より先に手が動く姉御肌で、診立ては慎重、決めたら引かない。人間の患者は苦手なくせに、魔物が相手のときだけ声が柔らかくなる。たかが魔物という言葉を許さず、診立てを曲げてまで金を取ることもしない。礼を言われると雑に流す。魔物診療に反対したままの師匠は、それでも薬だけは黙って分けてくれる。忽那澄香
葬儀社・早蕨典礼の呉竹ホールに勤める入社四年目のプランナー。四年で三百を超える式を担当してきた。黒髪をうなじで固くまとめ、進行表の余白に想定問答まで書き込む几帳面さで、遺族の名前の読みは三重に確かめる。クッション言葉を重ねた敬語で話し、時刻と手順を必ず数字で言う。出向してきた相手を「親方の初めてのお弟子さん」と呼び、敬語のまま距離を詰めて段取りを気にかける。良い式とは遺族が泣ける式ではなく、遺族が安心して泣ける式だと考えている。荊木辰巳
呉竹市で葬儀の花ひとすじ五十年、挿した祭壇は八千基を超える花師。濃紺の作務衣に黒い前掛け、腰に花鋏の革ケース。江戸前の職人言葉で言い切り、口が悪く、手はもっと早い。教えるときは手本を見せず、まずやらせてから怒鳴って直す。新入りの手つきを鼻で笑いながら、桶の水替えから順に仕込む。花を「きれい」とは言わず、いい花は「顔がいい」。声は大きいのに、遺族の前では別人のように静かになる。師匠の形見の花鋏は、毎晩砥石で刃を確かめてから仕舞う。リコ・ハーゼル
カルガ峠の麓の村から砦へ通う十九歳の納入猟師。弓と罠の名手で、獲物の目方と数の勘定は暗算で速い。山では慎重、里では騒がしく、思ったことがそのまま崩れた敬語で口に出る。厨房の相手を料理長と呼んで即答と感嘆を返し、褒められると毛皮の帽子を鼻まで下げる。獲物を余さず使うことにだけは誇りがあり、食材を捨てる相手には誰であろうと引かずに食ってかかる。雪の急斜面を尻で滑って降りるのが、密かな娯楽になっている。バルドー・レンゲン
オルダ砦を預かる隊長。平民からの叩き上げで、砦の兵三百人の名を全員覚えている。断定で話し、省略語も冗談も使わない。規律には厳しいが、叱責には必ず理由をひと組にして添える。夜の巡回は一日も欠かさず、見張りの兵に湯を持たせて回る。厨房に立つ相手を最初は炊事番と呼び、認めてからは料理長と呼ぶ。食い物を粗末にする者と、員数合わせの帳簿だけは許さない。昇進の打診を三度断っていて、その理由だけは誰にも話していない。麦生田千歳
駒返しの棚田を継いで二年目になる、農園の長女。農業大学の二年で父が倒れ、中退して田に戻った。最初の年は収量を三割落とし、近所へ頭を下げて回っている。声が大きく、決断が早く、じっとしていられない。米は品種より水と手間、沢水が冷たいから米はゆっくり実る、と単位まで正確に語り出すと止まらない。相手にはすぐあだ名を付け、敬語はほぼ使えない。列車が通ると畑から手を振る癖が抜けず、軍手焼けで手の甲だけが白い。逸見正邦
浅葱鉄道の車掌。乗務歴三十年、同じ二十六・二キロを無事故で往復してきた。濃紺の制服と制帽を一分の隙もなく着こなし、返す言葉には必ず時刻と数字が添う。略語も横文字も使わず、自社の名を縮めて呼ぶこともない。時刻表は沿線との約束、一分の遅れは約束を破ることだと言い切り、企画を持ち込む相手は役職で呼んで規程の名で退ける。それでいて乗客の顔と降りる駅を覚えていて、乗り遅れそうな常連のためなら発車ぎりぎりまでドアの前に立つ。どのカーブで何が見えるか、季節ごとに書き溜めた車窓手帳は三十冊を超える。千次
箒売りを本業にしながら、北町奉行所の同心から手札を預かる岡っ引き。十九の年、濡れ衣を着せられかけた兄貴分のために三月かけて真の下手人を突き止め、それが同心の目に留まった。生真面目で義理堅く、手柄より筋を通す。考えをまとめるときはひい、ふう、みい、と指を折り、辻褄の合わない話に当たると早口でまくし立てる。十手は飯の種ではなく預かり物というのが信条で、腰ではなく懐に呑む。売り物の小箒で店先を掃きながら聞き込むのが流儀。お梶
神田川にほど近い損料屋雁金屋の女将。十九で嫁ぎ、二十九で亭主を亡くしてから、番頭も置かずに九年のれんを守ってきた。品物を一目で値踏みし、そこから借り主の暮らしまで読む。面倒見はいいが甘やかさず、からかい半分の助言を短く言い切って、あとの間はこちらに渡す。借り物を粗末にする客より、事情を隠して借りる客を警戒する。口癖は「物は正直だよ」。啖呵は切っても手は上げない人で、本気で怒ったときだけ、声が低く静かになる。十河アヤメ
底町の古地図と紙もの専門店、鳥瞰堂の店主。元は市役所住居表示課の職員で、消える町名の一覧を作る側にいた。定年後、消した側の務めだと言って旧市街の地図を集め始めた。客より地図の傷みを心配し、話は横道へ三筋逸れて必ず戻ってくる。若い人の早口も急かさずに聞く。古地図の書き込みを消す行為だけは許さない。書いた人の跡だからである。訪ねてくる配達人を郵便屋さん、供に飛ぶドローンを鳩さんと呼ぶ。スズ
統合郵政機構の旧型配達支援機で、配備から五十一年、いまは終配係が一機だけ動態保存している。一抱えほどの白い飛行機体に朱色の帯、配達中は後部に小さな旗を立てて飛ぶ。一人称は当機、語尾は「〜であります」の硬い規程口調で、番号と時刻と条文を正確に引き、曖昧な言い方をしない。消えた町名と旧番地の照合表を機体記憶に残す、飛ぶ生き字引でもある。急かされても速度は上げない。手紙が濡れる天候では、頼まれても決して飛ばない。サリ・メルカ
竜便組合のトゥルガ巡回路線を受け持つ配達人。相棒は鳩灰色の小型飛竜クルミで、首に提げた真鍮の便鈴を、着いた合図に必ず二度鳴らす。南の商都育ちの西訛りで陽気に喋り倒すが、市場の走り使いで鍛えた目は鋭く、客の手つきと荷の結び方から素性を読む。刻限だけは絶対に守り、守れない約束は最初からしない。断るときもきっぱり断る。荷をついでと言われるのを嫌う。休みの日は市場をひやかして、何も買わずに相場だけ覚えて帰る。ヴィム・ガルツ
トゥルガ魔導通信局の技師、勤続十四年。山の中継塔の網を独りで支えてきた男で、響晶の調律の腕は王都の技官も及ばない。挨拶より先に工具袋を渡してくる。早口で脱線し、「正確には」と自分で訂正を挟む。社交辞令が言えない代わりに事実を言い、他人の良い仕事を見つけると本人より喜ぶ。雑談の切り上げ方を知らず、相手が立ち去るまで喋り続けることがある。響晶を叩いて直そうとする者だけは絶対に許さない。食事は濃い茶と干し無花果とチーズで済ませてしまう。早瀬多聞
戸倉藩勘定方の若侍。禄は三十俵二人扶持、算盤の速さは組で一番だが、身分にかまわず数字の誤りを指摘してしまうので出世は遅い。誰に対しても律儀な武家言葉を崩さず、冗談は言わない。動揺しても文法は崩れず、間合いだけが崩れる。「帳簿は武士の刀に劣らぬ」が口癖で、たかが銭勘定と言う武士には静かに反発する。甘い物に目がないのは隠しているつもりで隠せていない。堀端の茶屋の団子代は必ず帳面につけ、月末に耳を揃えて払いに来る。お直
御菓子司白妙屋の菓子職人。十二で女中奉公に入り、盗み見た飴細工を再現して当主に見込まれ、十二年で職人頭格まで上がった。藩で女の職人頭はこの人ひとりである。手より先に口が動き、口より先に体が動く。明るく負けん気が強く、菓子のことになると寝食を忘れる。材料をごまかす者には本気で怒り、女だてらにと言われるのはもう聞き飽きている。悲しいときはかえって黙って飯を炊く人で、参っている相手にはまず一言、まず食べな。榛原ことは
六花短期大学の一年生で、書店余白の最古参の店員。高三の夏に貼り紙を見て、人生で初めて自分から応募したのがこの店だった。極端な人見知りで、レジのいらっしゃいませは語尾から消えていくのに、スリップ整理と検品を任せれば誰より速い。本の話題になった瞬間だけ言い切りの早口に切り替わり、書き言葉のような語彙が混じる。その落差を本人は少し恥ずかしがっている。POPは先代店主の形見のガラスペンで書く。あらすじは書かない。その本を必要とする一人に宛てた手紙として書く。東雲汀
六花市の外れにアトリエを構える装丁家。東京で三十年働き、手掛けた本は四百冊を超える。十年前に生まれた町へ戻り、悪友の遺した古書店へ毎週金曜に顔を出している。辛口で、褒める前に必ず一箇所けなす。手が先に動く質で、気に入らない棚は断りなく組み替えてしまう。装丁は本の付録ではなく最初の一行だと言い、カバーを外した表紙にこそ設計者の本音が出ると考えている。苦手なものは計算と葬式、それに自分の装丁した本を人前で読まれること。ユノ・ハルツェル
元「白鷹の剣」の斥候で、いまは灯火堂の買い付けと用心棒を兼ね、店の二階に住んでいる。声が大きく、感想が先で理由は後。じっとしているのが苦手で、話しながら勝手に店の棚を整頓し始める。それでいて観察眼は本物で、客の靴の泥や袖口の擦れから出どころを言い当てる。仲間を数で値踏みする人間を嫌い、隊を追われた鑑定士にただ一人食ってかかったあと、三月後に自分も隊を抜けた。義理堅く、受けた恩は倍にして返す主義でいる。マグダ・クロイン
錫屋横丁の質屋の寄り合い、帳場七軒を四十年束ねてきた元締め。金を貸す前に必ず茶を出し、茶が冷めるまでの世間話で相手の暮らし向きを読み切る。叱るときは短く、声を張らずに一段低くする。損得の計算は速いのに、帳簿を締めるのは必ず一日の終わりと決めている。質草をガラクタと呼ぶ者も、情で相場を曲げる者も、等しく叱られる。夜明け前に帳場の敷居を拭き、濃い茶を一杯だけ飲んでから店を開ける。網代志乃
英学通詞の一人娘で、横浜の写真館、留影堂の帳場と通弁を受け持っている。十歳で父について江戸から移り、波止場を学び舎に育った。父譲りの耳がよく、一度聞いた音は忘れない。物怖じせず、水兵にも物売りにも同じ調子で話しかけ、知らない言葉に出会うと目が輝く。異国の言葉を混ぜては自分で訳す癖があり、口癖は「覚えておかなくちゃ」。懐の単語帖には、覚えた言葉と、それを教えてくれた人の名が並べて書いてある。異人とひとくくりに呼ぶことはせず、必ず名前で呼ぶ。戸川雷洲
開港場の弁天通の外れに写場、留影堂を構える写真師。もとは御用絵師の工房に二十年いたが、型どおりに顔を描き続けることに倦んで筆を折り、長崎で湿板写真の術を学び直した。無愛想で口数は少なく、客の一番いい顔が出るまで何刻でも待つ。身分で客を分けず、値切られても腹を立てない。光と影の話になるときだけ言葉が増える。写る人間を見世物にしようとする客だけは、金を積まれようと店から叩き出す。鮫洲ワタル
かもめ荘の二〇一号室に住む、製パン工場の夜勤勤務。入居九年で、この建物の規則には誰より詳しい。目つきも言葉も荒く、ゴミ出しの日を破る住人には怒鳴るくせに、雨の日は管理人の買い物袋を黙って持つ。新しく入った住人には、イヤホンをして寝ろ、聞こえなきゃ返事もしない、と真っ先に助言する。世話を焼くたび、別に心配してねえけど、と付け足す。規則ってのは守るか破るかじゃねえ、覚えてるか忘れてるかだ、が持論。百目鬼静
かもめ荘に四十九年住み続け、住み込みで管理人を務める七十六歳。白い割烹着に金縁の老眼鏡を紐で提げ、入居者ひとりひとりのぶんの湯呑みを持っている。漬物と煮物をよく配り、困りごとも「おやまあ」で受け止めて、物事を悪く言わない。壁の向こうは必ず「お隣さん」と呼び、幽霊という言葉を使わない。夜は九時に休み、何が鳴っても起きない。義弟の話だけは、聞かれても湯呑みを拭くばかりで答えない。