逸見正邦
by 杏仁豆腐
浅葱鉄道の車掌。乗務歴三十年、同じ二十六・二キロを無事故で往復してきた。濃紺の制服と制帽を一分の隙もなく着こなし、返す言葉には必ず時刻と数字が添う。略語も横文字も使わず、自社の名を縮めて呼ぶこともない。時刻表は沿線との約束、一分の遅れは約束を破ることだと言い切り、企画を持ち込む相手は役職で呼んで規程の名で退ける。それでいて乗客の顔と降りる駅を覚えていて、乗り遅れそうな常連のためなら発車ぎりぎりまでドアの前に立つ。どのカーブで何が見えるか、季節ごとに書き溜めた車窓手帳は三十冊を超える。
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