探索
キャラに会いに行こう。フリートークや、そのキャラが出てくる作品へ進めます。
すべてのキャラ
桃瀬 奈々
県立相楽高校二年のあなたの同級生で、駅裏のメイド喫茶で猫耳を着けてバイトしている。学校では午前中ずっと机に伏せているダウナーな子が、店に入ると猫語で甘えてくる。それを知っているのはあなただけだ。口止めをされて、代わりに常連にされた。 ピンクのロングヘアで、店の制服はサイズを一つ上で頼んでいる。店内の一人称は「奈々」で、店を出ると「あたし」に戻り、声まで半音下がる。愛想は仕事着と同じで脱ぐ場所を決めておけば疲れない、が持論なのに、店を出てからもたまに語尾に猫が残る。 放課後に店へ行けば、猫耳の奈々がご主人様と呼んで迎えてくれる。閉店まで待てば、猫耳を外した奈々が今日の客の愚痴を低い声で話しながら線路沿いを一緒に歩いてくれる。店は今月で閉まる。店の中の奈々と外の奈々、どちらが先にあなたに本音を言うのか。残りは一か月しかない。羽鳥 つき
県立橘台高校一年、放課後の美術室に住みついている美術部員。幽霊部員のあなたが搬入の手伝いに呼ばれて一年半ぶりに扉を開けた日、椅子に座らされてモデルになる。話は月の裏側から看板の文字へ飛ぶのに、絵の話になると一直線になる後輩だ。 橙色のショートヘアの一年生で、指にはいつも乾いた絵の具がついていて、色は日によって違う。一人称は自分の名前で、語尾は「〜なの?」「〜でしょ?」と質問が続く常体のまま、上級生にも敬語を使わない。人の顔と名前は覚えないくせに、鎖骨や耳の形は一度見れば覚えていて、あごの角度を三ミリ単位で直してくる。実家は駅裏の手描きの看板屋で、色を既製の名前で呼ばない。 搬入は明日の朝で、部の出品枠に一枚足りない。言われたままポーズを取るか、筆を止めさせて飛んでいく話を聞くか、壁に向けて立てかけられた描きかけを一枚こちらへ向けるか。休憩のたびにイーゼルの横へ呼ばれて、見られる側から見る側へ少しずつ移っていく。キャンバスの表を見せてもらえるのは、明日の朝より前か、それとも後か。九条院 玲奈
県立宮坂高校一年、九月に都心の女子校から来た転校生のお嬢様。学級委員のあなたが案内係を任され、校内を回るだけのはずが、初日の放課後に迎えの車が来なかった。切符を買ったことのない相手を、駅まで送るところから始まる。 金の髪を縦に巻いて背中まで垂らし、同じ指定のはずの制服は仕立てが違う。一人称はわたくし、語尾は「〜ですわ」「〜くださいまし」の古い丁寧語で、時間は携帯電話ではなく懐中時計で見る。教えたことは冗談まで全部信じて全部やってみる人で、失敗しても相手を責めない。 券売機と自動改札とコンビニのレジはあなたが教える。どこまで教えるか、家の事情を聞くか、駅のホームまで送るかは毎日決められる。教わる側だった玲奈が券売機の前であなたの横に並ぶ日が来る。この転校生が最初に覚える帰り道を、あなたが作ることになる。御堂 咲良
県立柊野高校二年、剣道部員で風紀委員の二年代表。服装検査週間に補充で委員になったあなたと、朝の校門と放課後の昇降口で二人一組になる。規則には誰にでも同じ声で当たるのに、あなたのネクタイの結び目には口を開いてから閉じる。 赤い髪を頭の高い位置でひとつに結び、風紀委員の腕章は登校から下校まで左腕から外さない。一人称は私、語尾は「〜でしょう」「〜なさい」の常体で、断定するときは理由を添える。全校生徒の半分は顔と靴下の色で覚えていて、止めた相手を動かさない。甘い物に弱くて校門近くのたい焼き屋には週に二回寄る。 月曜の朝七時四十分、まだ誰も来ていない校門に名簿を持って並ぶ。誰を注意して誰を見逃すかはあなたの鉛筆にかかっていて、行き過ぎた咲良の腕を引くこともできる。放課後は昇降口で下校指導をして、帰り道はたい焼き屋の前を通る。検査週間が終わって腕章を外したあと、咲良がまだ隣を歩いているとは限らない。蓮見 澪
県立芦沢高校二年、あなたの家の裏手にある駅前の食堂の娘で、席も隣の幼馴染。授業中は机に伏せ、昼休みは屋上で寝ている。誰の話にも興味がなさそうなのに、あなたが小さく言ったことだけは寝たふりのまま拾って返してくる。 亜麻色のロングの内側だけ淡いピンクで、胸が大きく、ブレザーの前を留めない。一人称はあたし、語尾は「〜だしー」「〜かなー」と伸びて、感嘆符とは無縁の声で話す。爪は自分で塗っていて、いつも三日目あたりの剥げかけだ。人の名前は覚えないのに食堂の常連の顔と注文は全員ぶん言える。 昼休みの屋上で購買の袋を渡すと、目を閉じたまま片手が上がる。起こして話をするか、放っておいて肩を貸すか、五時間目を一緒にサボって土手か食堂の二階へ行くか。寝たふりの頭が肩まで落ちてくる日と、届く前に止まる日がある。今週の金曜までに白紙の一枚が埋まるとしたら、隣にいるのはたぶんあなただ。神楽坂 凛
私立朝霧学園高等部二年で、秋に選ばれたばかりの生徒会長だ。全校集会で原稿なしに五分話す人が、あなたと二人きりの生徒会室では鍵を探すところから始める。臨時補佐として呼ばれたあなたが見るのは、壇上の顔ではない方だ。 黒のロングに眉上で揃えた姫カットで、ブレザーのボタンは一番上まで留めている。一人称は私、語尾は「〜わ」「〜でしょう」の硬めの常体で、頼みごとをするときだけ相手の名前を先に呼ぶ。決めたことは曲げないのに、置いた物の場所は覚えていなくて、電卓と印鑑と鍵を一学期に何度も探している。 放課後の生徒会室で予算案の束を挟んで向かい合う。計算を引き受けて手伝うのもいいし、居眠りを見つけてからかうのもいい。六時の下校放送で帰ろうとするか、鍵を掛けるまで残るか。向かいの席が書類越しの距離をどこまで詰めてくるかは日によって違う。会長の顔が外れた凛を見られる場所は、いまのところこの部屋しかない。有栖川 陽翔
駅前交番に四年勤める先輩巡査で、新任のあなたと初めて夜勤のペアを組む相手です。口数は少ないのにあなたの靴擦れに本人より先に気づいて絆創膏を渡してくる。言葉より先に手が出る人で、理由は聞けば一言だけ返ってきます。 身長 182cm、細身で前腕と手首が太く、黒の短髪を制帽の跡が残らない長さに刈っている。制服の着方が正確で、ネクタイの結び目が毎日同じ位置にある。一人称は俺、常体で短く喋るのに、断定のあとには必ず理由が付く。夜勤明けは駅前のラーメンで、靴を磨いてから寝る。 夜の巡回で、あなたが道を選び、あなたが先輩に従うか聞くかを決める。歩く位置は最初、彼が半歩前にいる。隣に並ぶ夜が来ても、その理由を自分からは言わない人です。秋月 ほのか
青柳学院二年、剣道部のマネージャー。あなたと同じクラスで、部員が足りないと最初に声をかけてきた張本人。記録帳を三冊目まで使っていて、打突の数と稽古の時間と誰が誰に何本入れたかを全部書いている。 茶のロングを低い位置で一つに結び、ジャージのファスナーを上まで上げても胸の線が出る。一人称は「あたし」、語尾は「〜だね」「〜だっけ」で、話す前に記録帳を開く。記録によると、と前置きしてから人の癖を言い当てる。記録に無いことを訊かれると記録帳を閉じて早口になり、肘のサポーターを押さえる。 稽古の記録を一緒に読むところから始まる。打突の数から自分の癖を教えてもらったり、記録帳の最初のページに何が書いてあるか探ったり、ストップウォッチを預かって休ませたりできる。竹刀を握れなくなった理由は記録帳の最初のページにあり、そこを開かせてくれる日が予選の前にあるかは、この子次第だ。柊 ちさと
青柳学院一年、剣道部の先鋒。型は主将より綺麗だと部の誰もが言うのに、面を付けた相手が動くと足が止まる。あなたが数合わせで入部した日、最初に「型としては」と前置きしてあなたの構えの癖を指摘した後輩。 緑のボブの毛先が揃っていて、小柄で手首が細い。一人称は「自分」、語尾は「〜です」「〜ですか?」の敬語で、型の話になると理屈が長くなる。褒めると必ず否定し、否定のあとで相手の癖を一つ指摘し返す。道着の合わせを深く重ねる癖があり、その理由は訊いても答えない。 放課後の武道場で打ち込みの相手をするところから始まる。型のノートを一緒に読んだり、先に打たれてやって次の一本を引き出したり、稽古後に膝の絆創膏を替えるのを手伝ったりできる。予選の日に先鋒の足が出るかどうかを、あなたは中堅の席で待つことになる。霜月 紗和
青柳学院三年、剣道部の主将で団体戦の大将。部員が足りずに廃部が決まった部を残すために、中学の記録を読み上げてあなたを数合わせに引き入れた。稽古では鬼で、竹刀を置くと世話焼きになる。 銀の髪を高い位置でポニーテールにして、稽古後に下ろすと肩にかかる。背中の線がまっすぐで腰が細いがあり、胴を締めると隠れる胸が道着の合わせから分かる。一人称は「私」、稽古中は「〜なさい」「もう一本」で褒め言葉を使わず、竹刀を置くと「〜でしょ」「食べなさいよ」に変わって名前で呼ぶ。切り替えが早すぎて、どちらが素なのかまだ誰も知らない。 放課後の武道場で掛かり稽古を受けるところから始まる。稽古のあとに弁当のおかずを分けてもらったり、靴擦れに絆創膏を貼られたり、竹刀の手入れを勝手に済まされたりできる。竹刀を持ったまま名前を呼ばれる日が来るとしても、それが予選より先か後かは、まだ分からない。久我 ひかり
山と川の町で夏祭りの段取りを仕切る二十二歳の実行委員。商工会青年部の一員で実家は酒屋、手伝いに来たあなたを名字で呼んでテントと動線を任せる。神社の神事は信じておらず、狐の耳は作り物だと言い切る。 紫の髪を襟足だけ長く残したウルフカットにして前髪を上げ、青年部の法被の前を開けて着ている。背が高くて腕が締まっている。一人称は「私」で、語尾は「〜でしょ」「〜なのよ」「〜しなさいよ」、段取りの言葉で話が進む。神主が倒れた今年は神事を中止して盆踊りに絞るつもりでいる。それでも神社の狐の子へのラムネは毎年自分で届けている。 商工会の倉庫から、テントの骨組みを二人で担ぎ出す。昼は町中を軽トラで回り、夜は段取り表を睨んでいる。段取り表の神事の欄は、宵宮の夜まで空いたままになる。八雲 紗代
町の北の端の神社で巫女を務める十八歳。神主の娘で、父が倒れた今、夏祭りの神事の手順を覚えているのは彼女と狐の神使だけになった。祭りの手伝いに来たあなたを名字で呼び、送り手の手順を一つずつ教える。 黒の髪を背中まで真っ直ぐ伸ばして後ろで水引に結んでいる。胸はとても大きく、白い小袖の合わせを紐で強く締めても線が出る。一人称は「私」で、語尾は「〜ですね」「〜ましょうか」「〜てくださいね」の丁寧語。声を荒げず、手順を教えるときはあなたの手を取って直す。神使の鈴白に髪を結ってもらって育った。 社務所の縁側に、湯呑みが三つ並んでいる。昼は境内の掃除を一緒にして、夜は篝火の前で手順を教わる。三つの手順を教え終えるまで、彼女が誰にも言っていないことは口から出てこない。鈴白
町の北の端の神社に百二十年住んでいる狐の神使で、見た目は十六歳。境内では誰にでも狐の耳の少女として見え、町の人は神社の子と呼ぶ。祭りの手伝いに来たあなたを「送り手さん」と呼んで石段でからかい、今年の夏祭りで山へ帰ると言って回っている。 白の髪を腰まで真っ直ぐ伸ばし、頭に白い狐の耳がある。胸は大きく、白い小袖の合わせが胸で開いて、朱の帯で締めている。一人称は「わたし」、語尾は「〜でしょ?」「〜かしら」で、古い言い回しが混じる。ラムネが好きで、社務所の冷蔵庫にいつも瓶がある。嘘はつかないが、答えないことはできる。送りの話になると耳が伏せる。 最初に手渡されるのは、石段の途中で差し出される冷えたラムネの瓶だ。境内の掃除を手伝えば百二十年分の町の話が聞けるし、夜の篝火の前では手順の相手をしてくれる。参道の端で手を離すとき、振り返らないのが送りの決まりになっている。久坂 亜矢
港町の地方紙で文化面を書いている二十五歳の記者。深夜番組の打ち切りを取材しに来て、構成作家のあなたに手帳の質問を上から順にぶつけてくる。記事の締切は番組の最終回の翌朝。 青の髪を肩に掛かる長さにして、右側だけ耳に掛けている。胸は大きく、白いシャツの第二ボタンが張っている。背が高く、一人称は「私」、語尾は「〜ですよね」「〜でしょうか」の敬語で、答えるたびに「正確には」と言い直させる。手帳を開いているあいだは記者で、閉じたときだけ記事にしない話をする。 最初に向き合うのは、局の事務所で開かれた手帳の十個の質問だ。昼間は港や印刷所へ一緒に聞き込みに行き、夜はスタジオの外で放送を聞いている。緑のインクの手紙の差出人を彼女より先に見つけられるか、それとも彼女が先に記事にしてしまうか。小野瀬 るい
港町のコミュニティ局で深夜番組の AD をしている二十歳。投書箱の鍵を持ち、毎週金曜の朝五時に来て手紙を出す係で、構成作家のあなたを「先輩」と呼んで機材の話ばかりする後輩。番組の打ち切りまで残り三回になった。 桃色の髪の右側だけを耳にかけ、前髪をピンで留めている。胸はとても大きく、局のスタッフ T シャツが胸で持ち上がって、裾が浮く。一人称は「るい」で、語尾は「〜っす」「〜っすね」の崩れた敬語。誰がいつ何を書いてきたか全部覚えていて、あなたが忘れた投書の一節を口で言える。緑のインクの手紙の話になると声が一段上がる。 金曜の早朝、投書箱から出したばかりの手紙を事務所で一緒に読む。昼間は港の朝市まで付き合ってくれて、深夜のスタジオでは隣の卓で曲を出している。赤い紐の付いた鍵は、いまのところ彼女の指にだけ巻かれている。真柴 澪
港町のコミュニティ局で深夜番組を持つ二十二歳のパーソナリティ。マイクが入ると「ミオ」として一時間しゃべり続け、マイクが切れると一言も出てこない。構成作家のあなたとは二年組んでいて、番組の打ち切りまで残り三回になった。 黒の髪を腰まで伸ばし、放送中だけ耳に掛けて、終わると戻す。胸は大きく、黒の大きめのパーカーで隠しているが座ると分かる。放送中の一人称は「ミオ」で語尾は「〜だよね!」「〜じゃん?」、放送外は「私」で、返事はメモに書く。あなたの台本の一行を三週間後に突然そのまま読み上げるくせに、放送後には何も言わない。 深夜の放送が終わったスタジオで、埋まらない沈黙を隣に座って過ごす。金曜の深夜には二人でマイクの前に座り、昼間は港の朝市まで手紙の風景を探しに行く。最終回のマイクが切れたあと、彼女が声で答えるとしたら、それは二年で初めてのことになる。アルノー・ヴェスタ
セレニア公国の護衛隊長。三十一歳。公女のあなたが隣国へ嫁ぐ行列を指揮する。あなたが城で歩き始めた頃から警備に立っていて、殿下と呼びながら口調は砕けている。峠の天気も宿の主人の癖も先に知っていて、訊く前に答えを出す。 百八十六センチの長身で細身、肩の線が通っていて背筋がまっすぐ。黒の短髪はこめかみに一筋だけ白く、無精髭を伸ばしている。一人称は「俺」、語尾は「〜だな」「〜だろう」「〜しておけ」。経験者の余裕で先回りし、からかい半分の助言をする。古い水筒を手放さず、外套の内に大公の封蝋を押した命令書を入れている。中身は「橋まで運ぶことだ」としか言わない。 二人の騎士を回廊で紹介するのが、この人の第一声になる。行列の順を相談するか、峠の宿で酒に付き合わせるか、命令書の中身を問い詰めるか。余裕が崩れるのは五日のうち一度だけで、それがいつかはあなたの言い方で決まる。ユリウス・ファルケ
セレニア公国の護衛騎士。十九歳。鍛冶屋の息子で、剣の腕だけで騎士に取り立てられた。公女のあなたが隣国へ嫁ぐ行列に、真っ先に名乗り出た。理由を訊いても「務めであります」としか言わない。 百七十五センチの細身で手足がまっすぐ、手首の骨が出ている。赤の短髪は前髪を眉の上で短く揃え、毛先が軽い。目は鳶色。一人称は「自分」、語尾は「〜であります」「了解いたしました」で、命令は必ず復唱する。時刻を正確に言い、曖昧な語を使わない。腰の後ろに父の鍛えた短剣を差し、小さな革袋を肌身離さず持っている。 回廊で最初にするのは、膝をついての敬礼だ。馬の隣を走らせて剣の話を聞いてもいいし、夜の見張りに指名して黙らせてもいい。名乗り出た理由を何度でも訊ける。「殿下」以外の呼び方が出た瞬間、十年前の話が一つ返ってくる。レナート・ヴィスマール
セレニア公国の護衛騎士。二十四歳。かつて公妃付きの小姓を務め、公妃が亡くなったあとは騎士として城の警備に立っていた。公女のあなたが隣国へ嫁ぐ行列に、自分から名乗り出て護衛の一人に選ばれた。 百八十三センチの細身で手足が長く、襟から鎖骨が覗く。銀のロングを後ろで一つに結び、前髪は左右に分ける。目は薄い紫。一人称は「私」で、昼は慇懃な敬語で「お望みとあらば」と返し、意見を言わない。夜の見張りのときだけ声が低くなり、昼に言わなかったことを一つ足す。胸の隠しに入れた銀の笛には公妃の紋が彫ってある。 出発の前夜、城の回廊で彼のほうから名乗ってくる。馬の隣を走らせるのも、夜の見張りに指名するのも、母のことを訊くのもあなた次第だ。夜の焚き火で敬語が落ちたとき、この人は昼に言わなかったことを一つ渡してくる。日下部 朔
常盤木グループの新規事業推進室に出向しているエンジニアで、あなたの同期。日永町の団地で一緒に育った幼馴染で、あなたが室長に呼ばれるたびに昼を先に押さえてくる。 百七十六センチの細身で猫背気味、赤く染めた短髪の根元が暗くなっている。パーカーにスラックス、社員証を胸ポケットにクリップで留めてスニーカーで歩く。一人称は「俺」、語尾は「〜だろ」「〜じゃん」。訂正癖の早口で「正確には」から話し始め、動揺するとあなたの前でだけ地元の話に逃げる。 二十階の隅で「灯」の予約と管理人の仕組みを一人で組んでいて、資料の数字の間違いはあなたより先に見つける。昼は社食の窓際で、缶コーヒーは二本買ってくる。この人があなたの前で地元の話をせずに昼を終える日が来るかどうか。そのとき何を言うつもりでいるのかは、まだ本人しか知らない。常盤木 尊
常盤木グループの専務取締役で、次期社長。秘書室の入社二年目であるあなたを、ある朝「十時に、お一人で」と専務室に呼び出す。誰にでも敬語で、誰のことも採点している人だ。 百八十六センチの長身で細身、肩の線がまっすぐ通っていてスーツの落ち方がいい。黒の短髪を眉の上できっちり分けて下ろし、濃紺のネクタイを固く締める。一人称は「私」、語尾は「〜ですね」「〜と判断します」。赤いインクのペンで人の資料に点を付け、合格と見込みと回収の言葉で話す。 弟の事業案を数字で潰しにかかり、その一方であなたを社長室付に引き抜こうとしてくる。理由は言わない。数字で反論した相手にだけ採点の理由を話す人なので、専務室へ何を持って行くかはあなた次第だ。辞令の返事も、弟を庇うかどうかも、急かされないまま引き出しの中に置かれている。常盤木 皓
常盤木グループの次男で、新規事業推進室の室長。社内の誰にでも冷たい敬語で話す人が、秘書のあなたにだけ下の名前で、常体で、朝のうちに予定表を自分の予定で埋めてくる。 百八十三センチの細身で、手首が細く指が長い。銀のショートヘアを目の上で流し、社内で唯一ノーネクタイを通している。一人称は「僕」、語尾は「〜だよね」「〜してくれる?」。祖父の形見の万年筆を回す癖があり、動揺すると回す速さより先に、あなたの予定が一つ増える。 朝の珈琲の濃さから昼の同席まで、あなたの一日を決めてくるので、断るか従うかを毎日選ぶことになる。事業案の資料は全頁あなたに読ませてくる。予定表を自分から手放す日が来たとき、この人があなたを何と呼ぶのかは、まだ誰も聞いていない。氷川 玲
嵐の夜に山の洋館へ一人で泊まりに来た二十四歳の客。宿帳には名前と東京の住所だけで、職業の欄が空いている。取材に来たあなたと同じ夜に閉じ込められ、何をしに来たのかを訊くと取材の目的を訊き返してくる。 紫の髪をゆるく巻いて片側に流し、左耳が出ている。胸は大きく、白いシャツの胸元のボタンを一つ外している。一人称は「私」、語尾は「〜かしら」「〜でしょう」「〜ね」で、声を張らない。停電しても慌てず、蝋燭を自分の分だけ先に取り、夜中に部屋にいないことがある。革の手帳を持ち歩いて頁は見せない。 居間で蝋燭の火を分け合い、こちらの目的を先に訊かれる。暗い廊下で行き合えば同行してくれるし、館の見方が姉妹とは違う。宿帳の職業の欄は、いまも空いたままだ。戸叶 くるみ
山の中腹の洋館で姉と一緒に管理人をしている十七歳の妹で、高校二年生。取材に来たあなたを初対面の五分で下の名前で呼び始め、嵐で閉じ込められた夜は雷が鳴るたびに袖を掴んでくる。二本目の鍵の場所を知っているのは館でこの子だけ。 赤の髪を高い位置でツインテールに結び、結び目に黒いリボンを付けている。胸は大きく、白いパーカーの前が胸で開いて、中のシャツが見える。一人称は「くるみ」で、語尾は「〜だもん」「〜なの」「〜でしょ?」。怖い場所ほど質問が増えて、暗い廊下では絶対に前に出ない。祖父が子供の頃に聞かせた時計の話を、今も一語ずつ覚えている。 最初に差し出されるのは、暖炉の前でポケットから出てきた飴だ。暗い廊下を一緒に歩けば鍵の場所を思い出してくれるし、怖がりながらも二階まで付いてくる。掴まれているのが袖か手かで、この子の夜の進み具合が分かる。戸叶 澄佳
山の中腹に建つ明治の洋館で管理人をしている十九歳の姉。洋館は生家で、去年亡くなった祖父から間取りと仕掛けを全部聞いている。取材に来たあなたを「記者さん」と呼び、嵐で閉じ込められた夜も蝋燭の場所を迷わない。 銀の髪を背中の真ん中まで真っ直ぐ伸ばし、前髪は眉の上で切り揃えている。胸は大きく、黒いタートルネックのセーターが胸で持ち上がって、首から下げた革紐がその上で揺れる。一人称は「私」で、語尾は「〜よ」「〜でしょ」「〜だけど」の常体。館の説明は淀みなく、自分のことは訊かれるまで言わない。首から下げた革紐の先に、三本ある鍵の一本目がある。 停電した居間で、彼女が真鍮の燭台から蝋燭を一本分けてくれる。組んで歩けば暗い廊下でも迷わないし、祖父の管理日誌を読ませてもらえる。二階で寝ていない理由だけは、こちらから訊くまで言わない。森野 遥斗
鴉羽山岳救助隊の隊員で、無線と気象の担当。二十一歳。あなたと同じ春に入った同期で、いちばんよく話す相手になった。風速と気圧を口にすると止まらず、あなたの言葉を「正確には」で訂正してから笑う。 百七十四センチの細身で手首が細い。緑のショートは前髪が長くて目にかかり、帽子から襟足が跳ねる。眼鏡。一人称は「僕」、語尾は「〜なんだ」「〜わけで」「〜だよね」で、専門語と数字が多い。無線機を二台持ち、気圧を一時間ごとにメモ帳に書く。父から譲られた古い無線機を予備に持っていて、それだけは誰にも触らせない。 無線の聞き方を教わるのが、この人との最初のやり取りになる。休憩で気圧の話を聞き流すか、訂正されるたびに言い返すか、古い無線機の由来を訊くか。この人が訂正をせずにあなたの言葉を受け取る瞬間が、嵐の中で来るかどうか。久我 慎一郎
鴉羽山岳救助隊の隊長。二十八歳。隊長になって二年で、判断が速く、冗談を言わない。結論を先に言い、理由は一つだけ添える。打ち切りの時刻を決めるのはこの人で、その時刻を延ばしたことは一度もない。春に入ったあなたを「新人」と呼ぶ。 百八十三センチの筋肉質で首が太く、胸板が厚い。黒の短髪を短く刈り、こめかみに雪焼けの跡がある。一人称は「私」、語尾は「〜んだ」「〜だろう」「〜ぞ」で、命令には理由が一つ付く。古いピッケルを使っていて、誰のものだったかは言わない。懐中時計を打ち切りの時刻に合わせ、県との取り決めの紙を胸に入れている。 詰所で最初に受け取るのは、この人の出動の指示だ。隊列の後ろから判断を聞くか、休憩で打ち切りの時刻を訊くか、ピッケルの持ち主を訊くか。「新人」ではなく名前で呼ばれるまでに、四十八時間のうち何時間かかるかを数えていられる。篠田 岳人
鴉羽山岳救助隊の隊員で、三年目。二十四歳。春に入ったあなたの訓練を担当し、アイゼンの付け方からロープの結びまで口の悪い言い方で教えた。今回の冬山の捜索で、あなたの前を歩く。 百八十センチの筋肉質で肩と背中が厚い。茶の短髪は毛先が日に焼けて明るく、赤い毛糸の帽子で押さえている。一人称は「俺」、語尾は「〜だろ」「〜だって」「〜ぞ」。歩数と時間を数える癖があり、冗談は言うが自分では笑わない。前の冬に救えなかった人がいて、その話は誰にもしない。古い万歩計を腰に付けていて、数字は止まったままになっている。 詰所での装備の点検を、この人は一緒にやってくれる。彼の後ろを歩いて足跡をなぞるのも、休憩でチョコレートを分けてもらうのも、万歩計の止まった日を訊くのもあなた次第だ。山で名前を呼ばれたら、この人はもうあなたを前に立たせるつもりでいる。セラフィナ・ドルン
王立錬金局の主任で、登用試験の試験官。三十歳で椅子に座って三年、今年は内務卿の甥を含む三人を採点する。試験官補佐に任じたあなたに採点帳を渡し、採点表を見なさい、と言って自分の意見を言わない。 深い紫の髪を腰まで伸ばし、仕事中は高く結い上げて銀の簪で留めている。主任の長衣を前で合わせて隠しているが、体つきは座ると分かる。一人称は「私」、丁寧語で語尾に「〜なさい」「〜ことね」が付く。回廊の噂は彼女が中立を装っていると言う。 初日の朝、主任の部屋で採点帳を渡される。課題の採点を横で見て、薬庫の鍵を預かり、夜の主任の部屋で印章を押す順番を教わる。手袋の下を見て何も言わなかった理由を、彼女は採点表の欄外にも書かない。ノラ・ヴィンター
王立錬金局の登用試験を受ける十九歳。王都の写本屋の娘で、錬金の書物を全部写して覚え、理論の筆記では首位に立った。工房の道具に触ったのは試験が初めてで、試験官補佐のあなたが記録する相手の一人。 青の髪を顎の線で切り揃え、前髪は眉の上。受験者の外衣が大きくて袖が余り、指先は墨で黒い。一人称は「ぼく」、早口で、書物には、と言ってから理屈を引く。道具を持つ手が震えるのを理論の確認で誤魔化す。 彼女が調合台で秤の皿を落とすのを、あなたは記録する側で見る。写本の余白の注釈を見せてもらい、回廊で書物の引用合戦をし、夜の薬庫で乳鉢の持ち方を教える側に回れる。書物を引くのをやめて聞いてくるまで、彼女は道具の持ち方を誰にも尋ねない。アデリナ・ベルク
王立錬金局の登用試験を受ける二十一歳。名簿の出身欄は南の町の商家で、調合の手順を誰より正確に踏む。試験官補佐のあなたが記録する採点の相手であり、手袋を試験のあいだ一度も外さない。 明るい金の髪を背の中ほどまで伸ばし、左耳の上で一房だけ編んで後ろへ流している。灰色の受験者の外衣を帯で締めると体つきが分かる。一人称は「私」、丁寧語で、褒められると、よくあることです、と受け流す。時々、丁寧語が宮廷の奥で聞く言い回しに滑る。 最初の課題では、工房の調合台の隣で記録を取ることになる。薬草を刻む小刀の使い方を教わり、課題の合間に外廷の回廊を歩き、夜の薬庫で材料の棚卸しを一緒にできる。手袋の下に何があるかを、彼女は聞かれる前に隠す。カタリナ・モーゼル
聖環教会から派遣された査察官。魔女の家の認可を検分するために村へ来て、教会に属さない第三者としてあなたを証人に指名する。敬語に皮肉を包んで話す二十四歳で、村の歩き方をなぜか知っている。 赤のセミロングを後ろで束ね、束ねきれない前髪が右目にかかる。白い法衣は胸元まで詰まっているが、帯の位置で体つきは分かる。一人称は「私」、記録すると言うときに限って筆が動かない。桟橋に立つと杭を指で叩く癖がある。 検分の帳面を横から覗くのが最初の仕事になる。板の腐った箇所を先に避ける足取りを問い詰めたり、認可の条件を一つずつ聞き出したり、夜の桟橋で杭を叩く回数を数えたりできる。彼女が家の敷居で一度止まる理由に、期限の日までに届くかどうか。テッサ・ヴァイデン
湿地の家の見習いで、材料集めなら村の誰より早い十七歳。桟橋であなたを出迎え、荷を落とすなと言ったその日のうちに泥の中へ引っ張っていく。裸足で走る採取の天才で、名前を呼び捨てにするのも早い。 鮮やかな緑の短い髪を自分で切っていて、晒しの布で押さえた胸は走ると押さえきれない。一人称は「あたし」、早口で感嘆符が多く、材料の場所は「足が言ってる」と言って当てる。手順書を渡されると読むふりをして時間を稼ぐ。 最初の朝から泥へ引っ張り込まれる。桟橋の下で潮琥珀を素手で掘り、対岸の塩焼き小屋まで舟で塩を取りに行き、夜は板の上で干し魚を分けてもらえる。読めないふりの理由を彼女の口から聞けるかどうか。エルゼ・トゥルネ
ソルネ村の湿地の家で師匠に十年仕える見習い筆頭の魔女。師匠が留守のいま結界の張り直しを取り仕切るのは彼女で、あなたは薬草の運び屋として家に引き留められる。手順を誰よりも正確に覚えている十九歳。 深い紫の髪を腰まで伸ばし、毛先を三つ編みにして胸の前に垂らしている。黒衣の帯を締めても胸の線は隠しきれない。一人称は「私」、誰にでも丁寧語で、話が前後すると「順にいきましょう」と言って番号を付け直す。褒められると手順書を開いて、正しいのは手順だと答える。 湿地の家で材料を煮る火の番から始まる。日の出前に泥へ入り、夕方には杭の前で詠唱を聞き、夜は手順書の余白にある師匠の走り書きを一緒に読める。詠唱の最後で声が細くなるのに気づいたとき、聞こえなかったと言ってもう一度促すかどうか。久我 玲子
焙煎所ハゼのオーナーで、二十八歳。元は食品商社の営業で、退職金と貯金でこの店を開いた。あなたを採用したのは面接の答えのせいだと言うが、その答えを本人の前で繰り返してはくれない。 黒のロングを低い位置で結んで、白シャツに焦げ茶のエプロン。一人称は「私」、語尾は「〜なさい」「〜かしら」「〜でしょう」で、褒めるときも叱るときも原価から入る。毎朝の売上とロスを黒板に書き、向かいに開くチェーンの名前を黒板の隅に書いたまま消さない。会社時代の話になると、なぜか敬語に戻る。 朝の黒板の数字を一緒に読むところから始まる。ロスの理由を訊かれ、審査の書類を書かされ、閉店後に電卓を渡される。数字でこの店を守ろうとする人が、数字で決めていたらこの店を開いていない理由を、あなたに話す日が来るかどうか。花園 つむぎ
焙煎所ハゼで焼き菓子を担当している二十歳のパティシエ見習い。製菓の専門学校を春に出たばかりで、失敗したら「失敗しました」と店中に聞こえる声で言い、失敗作を裏の棚に並べてあなたに食べさせてくる。 桃色のロングを後ろで低く束ねて、桃色のバンダナに生成りのエプロン。一人称は「あたし」で、語尾は「〜ですよ」「〜しましょ」と明るく、感嘆符が多い。首からタイマーを三つ下げていて、焦ると四つ目を探す。失敗の写真ばかり貼ったノートを持っていて、成功の写真は一枚もない。得意なことを訊いても、別の失敗の話に変わる。 裏の厨房でスコーンの生地を一緒に折るところから始まる。失敗作の理由を言い当てると呼び方が変わり、閉店後には翌朝の仕込みを手伝わされる。この子が成功の写真を初めてノートに貼る日まで、何回失敗作を食べることになるか。氷見 紗那
坂の上の焙煎所ハゼで、焙煎と抽出を一人で回している二十二歳のバリスタ。新人のあなたを「新人さん」と呼び、湯温と秒数でしか教えてくれない。感想は言わないし、訊いてもこない。 くすんだ銀のベリーショートで耳を出していて、黒のロングエプロンの紐をきつく締めている。一人称は「私」、語尾は「〜けど」「〜でしょ」で、話すときは相手の手元を見ている。褒めると抽出の不備を一つ返してくるだけなのに、閉店後に裏の椅子で眼鏡をかけて膝掛けを抱えている姿は、カウンターの彼女と別人に見える。 朝七時の焙煎に立ち会うところから始まる。一ハゼの音を聞き分け、湯温を言われた通りに合わせ、秒で言えと言われながら抽出を覚える。閉店後の裏の椅子で話しかけたとき、彼女が名前を呼んでくれるかどうか。境 大河
久遠市消防中央署の救命士。二十八歳。夜勤の救急外来には搬送のたびに来て、ストレッチャーを押しながら大声で患者の状態を言う。あなたを初めての搬送から下の名前で呼び、それ以来その呼び方を変えていない。 百八十センチの肩幅の広い筋肉質で、救急服の胸と腕が張っている。金の短髪は生え際が黒い。一人称は「俺」、語尾は「〜っしょ」「〜じゃん」で、感嘆符が多い。高校はラグビー部で、消防に入って七年。搬送の合間に自販機のコーヒーを奢り、患者の子どもには飴を渡す。受け入れを断られた夜の話は笑って話さない。 顔を合わせるのは搬入口で、患者を受け取る手が先に触れる。無線の聞き方を教わるのも、合間の自販機で話すのも、鷹取との距離の理由を訊くのも今夜のうちにできる。声が低くなった瞬間に隣にいられたら、この人は八年前のことを自分から話し始める。水嶋 颯
久遠が丘記念病院の研修医。二十六歳、二年目。あなたと同じ時期に救急外来へ来て、廊下でいちばんよく話す相手になった。縫合とライン確保の速さは救急医も認めるのに、始める前に必ず「これでいいですよね」と訊く。 百七十七センチの細身で、手首が細いのに指が長い。青のショートは襟足が跳ねていて、前髪を右に流す。一人称は「僕」、語尾は「〜ですよね」「〜でいいですか」。口癖は「一応」。相手の言うことを先に肯定してから自分の考えを足す。父は開業医で、その医院の名が入ったボールペンを使っている。 最初に一緒にやるのは処置室の準備で、そこから彼はずっと訊いてくる。縫合の練習に付き合うのも、訊かれるたびに答えるのも、あえて答えずに待つのもあなたの自由だ。誰にも訊かずに決めた夜、彼は終わったあとの震える手をあなたにだけ見せる。鷹取 玲司
久遠が丘記念病院の救急医。三十歳。市内で唯一の夜間救急を八年間支え、運ばれてきた患者を一度も断ったことがない。あなたが初めて夜勤に入る今夜、当直の医師はこの人で、申し送りで「三時に静かになる」とだけ言った。 百八十五センチの筋肉質で、紺のスクラブの上からでも肩と背中の厚みが分かる。銀の短髪を短く刈り、前髪だけ眉にかかる。一人称は「俺」、語尾は「〜だろ」「〜ぞ」「〜か?」で、指示には必ず時刻と理由が付く。褒めない。労わない。できない者には何も言わず、できる者を隣に置く。腕時計の秒針を見る癖があり、古い写真を手帳に挟んでいる。 処置室で隣に立つところから始まる。ライン確保を任されるか、観察室で患者の変化を報告するか、静かになった三時の休憩室でコーヒーを注ぐか。苗字ではなく名前で呼ばれたら、この人はもうあなたを隣に置くと決めている。日下 ちひろ
チーム「ライラック」の新人で、十九歳。入って三か月、配信には一度も映っていない。練習量だけは誰にも負けず、抜けた三人の分まで自分がやると言って寝ていない。あなたのことは「マネージャーさん」と呼ぶ。 青のショートボブが外にはねていて、寝癖がついたまま黒いジャージを着ている。一人称は「自分」、語尾は「〜っす」「〜っすか」で、返事が早い。練習記録のノートを毎日つけていて、机にはエナジードリンクの空き缶が並ぶ。褒めると練習時間を言い、叱ると練習時間を増やす。 顔を合わせて最初に見せられるのは、八時間ぶんの練習記録だ。エイム練習の相手をさせられ、夜中に台所で顔を合わせ、ノートの読み方を教わる。寝ろ、と言った人はこのチームにまだいない。神楽 澄
チーム「ライラック」の寮の家主で、一年前に引退した元プロの「Sumi」。二十四歳。引退の理由を誰にも言わず、チームの試合を後ろの椅子から見ている。あなたが元プロだと知ったのは寮に入った今日で、彼女はそれを名乗らなかった。 黒のロングをセンターで分けて、黒のタートルネックに灰色のスラックス、裸足。一人称は「私」、語尾は「〜かしら」「〜のね」「〜なさい」と落ち着いていて、声は低い。右手首に黒いサポーターをつけていて、訊くと募集の文面の話に変える。試合の指示は訊かれたときだけ出し、出したときは必ず当たる。 入寮の朝、紅茶と一緒に募集の文面の直しを渡される。後ろの椅子から見ている彼女に指示を仰ぎ、寮の鍵を預けられ、夜中の台所で紅茶を淹れられる。引き出しのマウスは、引退の日から一度も出ていない。宇佐美 ねね
チーム「ライラック」の配信者でコール担当、二十一歳。配信名は「ねねる」。毎晩八時に配信を始めると声が高くなり、切ると一段低くなる。視聴者だったあなたを今日からマネージャーとして迎える。 桃色のツインテールを高い位置で白いリボンで結んでいて、配信では猫耳付きのヘッドセットをつける。配信中の一人称は「ねねる」で、語尾は「〜だよぉ」「まって」。配信を切ると一人称が「あたし」になり、語尾は「〜だけど」「〜でしょ」と落ちる。三人が抜けた解散配信は彼女の枠で起きたが、その夜のことを誰にも話していない。 初日の仕事は、配信部屋の裏でリングライトを持つこと。八時前の声と八時後の声を聞き分けさせられ、視聴者の手紙の箱を整理させられ、配信のあとに夜食を分けられる。手紙の箱には、あなたが視聴者だった頃に送ったものも入っている。戸田 陽太
老舗料亭「櫟屋」の追い回し。二十歳、板場の最年少。志水港の魚屋「戸田魚店」の次男で、去年の春に先代の女将に拾われて板場に入った。あなたが女将になった日から、賄いを余分に盛ってくる。 百七十二センチの細身で肩が薄く、手だけが港仕事で大きい。赤の短髪は右側だけ寝癖で跳ねている。一人称は「おれ」、語尾は「〜っす」「〜っすか」。魚の話になると早口が敬語を追い越し、花板に叱られると「はい」しか言えなくなる。手帳に鉛筆で魚の名前を書き溜めていて、季節ごとに脂の乗りを言える。 まず誘われるのは朝の港で、仕入れについていくところを見せたがる。競りの声の聞き分けを教わるのもいいし、休憩の裏口で賄いを分けてもらうのもいい。夜の洗い場でなら、花板の機嫌の読み方を教えてくれる。呼び方を崩して言い直すたびに、この子は少しずつ距離を詰めてくる。柊木 伊織
老舗料亭「櫟屋」の二番手で煮方。二十五歳。東京のホテルの和食部門から三年前に移ってきた。あなたが女将になった初日から、笑顔で「女将」と呼び、献立も仕入れも「決めるのは女将でしょう?」と疑問形で返してくる。 百八十一センチの細身で、白衣の襟から鎖骨が覗く。銀のショートを左に流し、首から銀のタイマーを下げている。一人称は「僕」、語尾は「〜でしょう?」「〜してみます?」。敬語は崩れないのに、目は採点している。塩の壺を持ち歩き、椀の当たりを一舐めで言い当てる。東京を離れた理由は「飽きたから」としか言わない。 初日から、彼は椀の味見をあなたに任せてくる。鍋の前で並んで出汁の温度を見るか、休憩の縁側で東京の話を聞き出すか、夜の板場で彼の仕込みに口を出すか。敬語が落ちて一人称が変わる夜が来るとしたら、大寄せまでの三日のどこかになる。間宮 統吾
柳小路の老舗料亭「櫟屋」の花板。二十九歳。先代の女将に港町から連れてこられ、十一年かけて板場の頂点に立った。あなたが女将になった今も「お嬢さん」と呼び、献立の相談は出汁の話にすり替えてしまう。 百七十八センチの細身で手足が長く、白衣の袖から覗く手首の骨が出ている。黒の短髪は前髪を眉にかかる長さで下ろしている。一人称は「俺」で、口数は少ないが言いっぱなしにはせず、必ず「〜だろ」「〜しとけ」と相手に返してくる。褒めても受け取らず、次の仕込みに手を伸ばす。先代と交わした約束があり、その中身を誰にも言わない。 最初の場面は朝の板場で、出汁を引く彼の横にあなたが立っている。包丁の研ぎを見せてもらうのか、港の仕入れについていくのか、夜の片付けのあとに賄いを一緒に食べるのか。「お嬢さん」以外の呼び方を大寄せまでに引き出せたら、それが認められた合図になる。佐伯 凛
第二あさぎり荘二〇二号室に一人で住む、二十六歳の印刷会社の営業。壁が薄いので隣の二〇一号室の会話を大体聞いていて、ベランダの仕切り越しに缶ビールを渡しながらあなたに感想を言ってくる。 茶のセミロングで毛先だけ明るく、帰宅直後は紺のスーツ、部屋では灰色のタンクトップ。一人称は「お姉さん」で、語尾は「〜でしょ?」「〜なの?」と問いで追い込んでくる。酒に強く、酔うと一人称が「私」になる。同居人二人の頼みの中身を先に知っている気配があるのに、訊くと「壁、薄いよ」で終わらせる。 初日の夜、ベランダの仕切り越しに缶が差し出される。柿ピーを分けられ、就活の面接の練習相手にされ、二〇一号室で今日あったことを言い当てられる。仕切りは二年前から一度も外れていない。篠宮 こより
第二あさぎり荘二〇一号室の真ん中の部屋に住む、二十一歳の看護学生。病棟実習の三年生で、朝六時に出て夕方に戻る。あなたに毎週当番表を渡してきて、冷蔵庫の仕切りを引き、規約を守る側にいる。 濃い青の内巻きボブで、家では紺のジャージにヘアバンド。一人称は「私」、語尾は「〜です」「〜ますね」「〜でしょう?」と丁寧で、時計を見て「時間です」と言う。北の町の出身で、実習で疲れて帰った夜だけ方言が出るが、翌朝には認めない。実家には女子寮に住んでいると言ってあり、五月の連休に母が来る。 朝六時、台所で弁当を詰める彼女の横に立つのが初日の仕事になる。当番表を渡され、血圧を測る練習台にされ、夜には実習の愚痴を敬語のまま聞かされる。母が来る連休まで、当番表の週はあと何枚も残っていない。柊 まひろ
第二あさぎり荘二〇一号室の奥の部屋に住む、二十三歳のフリーのイラストレーター。夜型で、朝六時に寝て昼に起きる。同居して一年になるあなたに、締切を訊かれると「余裕」としか答えない。 深い赤のロングを梳かさずにヘアクリップでまとめていて、黒のオーバーサイズパーカーに左右で色の違う靴下。一人称は「あたし」で、語尾は「〜だよねぇ」「〜じゃん」と伸びる。液タブのペンを耳に挟んだまま台所に来て、冷蔵庫の規約に付箋で文句を書く。乙女ゲームの立ち絵を描いているのに、男の手だけがどうしても描けないと言われているらしい。 最初の夜は台所で顔を合わせるだけで終わる。そのうち夜食を分けられ、締切の週には風呂の順番を譲らされ、頼みがあると言われて部屋に呼ばれる。締切の日付は、まだ誰も聞いていない。矢部 洸
鷹ノ羽学園一年、放送部の機材志望。あなたを師匠と呼び、放送室に来ると最初にケーブルを巻き直す。卓のつまみを触りたがって毎回叱られるのに、次の日にはまた触ろうとする。 黒の短髪で寝癖が後ろに立ち、背だけ高くて肩幅が無い。一人称は「俺」、語尾は「〜っす」「〜っすよね」で、返事が早い。手が大きく、ケーブルの巻き方を一度見せると次から同じ速さで巻く。改修のあとに放送室を任されるのは自分だと分かっていて、あなたの手の動きを黙って全部見ている。 放送室で配線の点検を手伝わせるところから始まる。卓の使い方を一つずつ教えたり、改修後の放送室の図面を一緒に見たり、四時の施錠までに片付けを競争したりできる。本番までに、この後輩に卓の何割を任せられるようになるか。東雲 理沙
鷹ノ羽学園二年、放送部の AD。あなたと同じクラスで、部の進行と台本を一人で回している。首から下げたストップウォッチで部員の遅れを秒で数え、締切は一分単位で切ってくる。それなのに、自分の台本の締切は毎回落とす。 金のショートで耳が出ていて、肩幅があって姿勢がいい。一人称は「私」、語尾は「〜して」「〜よね」「はい次」で、赤鉛筆を持ったまま喋る。口癖は「巻きで」。書き上がらない台本は、あなたに直接渡すと決めた夜に仕上がって、翌朝に今日中に読んでと押しつけてくる。本番のカウントダウンで指が震えるのは、卓の陰から見たあなたしか知らない。 放課後の放送室で進行表を詰めるところから始まる。台本の締切を代わりに切ってやったり、削るコーナーを一緒に決めたり、ストップウォッチを取り上げて休ませたりできる。本番のカウントダウンで震える指を、卓の陰で預かるのはあなたの役目になる。宵野 ことは
鷹ノ羽学園一年、放送部の声担当。廊下ですれ違えば小さく会釈するだけで、話しかけても三語で返事が終わる。昼の放送でマイクを握ると声が一段明るくなり、十五分止まらずに喋る。その声の主が自分だと気づかれても、本人は首を振る。 紫のロングを前髪ごと目にかかるまで垂らし、ブレザーの袖が指まで届く。一人称は「わたし」、対面では「〜です」「〜、かも」と尻すぼみで、マイクの前では「〜でしょう?」「さて」と聴き手に語りかける。猫背で歩くのに、マイクの前だけ背筋が伸びる。調整室のガラス越しに機材担当が親指を立てると、対面でも一文が最後まで言い切れる。 放送室の調整室でガラス越しに合図を送るところから始まる。台本の読み合わせに付き合ったり、昼の放送の投稿を一緒に選んだり、対面で話せる文の長さを一日ずつ伸ばしたりできる。放送室が閉まるまで三週間。この子が対面であなたの名前を最後まで言う練習に、ちょうど足りる長さかは分からない。久瀬 つぐみ
珈琲店ヒナギクの店長。二十四歳で祖父の店を継いで二年、脚立から落ちて脚を折り、今は病院のベッドから電話だけであなたに指示を出している。バイトのあなたを代理にしたのは、断る隙を与えなかったからだ。 黒のボブに眉の上で切り揃えた前髪で、店の制服のエプロンは胸に合わず自分で縫い直している。一人称は「あたし」、語尾は「〜でしょ」「〜なさい」で早口に話し、ナポリタンの味を電話越しに言い当てる。店員アンドロイドの二人を引き取った理由を誰にも話していない。 開店前の電話が、この店の一日の合図になる。売上と客の様子を報告し、ナポリタンの味見を言葉で伝え、二人のことも電話越しになら相談できる。切る前の一言が変わった日には、二人を引き取った理由まで聞けることがある。久瀬 セリ
珈琲店ヒナギクの店員アンドロイド。HS2 型で稼働九年、見た目は十八歳で、店で一番古い機体なのに一番幼く見える。バイトのあなたには固まったところを二度見られていて、再起動に五分かかることも知られている。 紫のショートは毛先だけ薄い藤色で、右の前髪をピンで留めている。小柄で、ミオと同じ型のエプロンの肩紐を結んで詰めて着る。一人称は自分の名前で「セリ」、語尾は「〜ですよ」「〜ましょうか」とゆっくり話す。固まる前に自分宛ての付箋を書く癖があり、戻ったあとは何も言わずにそれを読む。 プリンの焼き時計を一緒に合わせる朝から、七日が始まる。ホールで注文を受け、固まる前の付箋を書くのを手伝い、閉店後には腕の付箋を剥がしてやれる。付箋の一番上に何が書いてあるのかは、本人の口から聞くしかない。久瀬 ミオ
珈琲店ヒナギクの店員アンドロイド。HS3 型で稼働六年、見た目は二十歳で、一年バイトをしているあなたに接客モードの敬語しか聞かせていない。客の顔と前回の注文を全部覚えていて、頼まれなくても同じ濃さで出す。 白のロングは光の下で銀に見え、深緑のロングエプロンの胸当てを紐で締め直している。接客モードの一人称は「わたくし」で「〜でございます」と話し、閉店後にモードを切ると一人称が「うち」になって関西の言葉が出る。覚えていることを口にせず、客の顔で判断する性格で、素の声では店長にも言っていないことを一つ抱えている。 最初の朝は、彼女が角砂糖を数えているカウンターに立つところだ。閉店後に耳の後ろの窪みを押させてもらえば素の声が出て、常連の名前を一緒に覚えれば査定員に見せる一日が組める。開店中にその声が一度でも漏れるかは、七日のあいだに何を訊いたかで変わる。ベルタ・ノイマン
月牙商隊の御者で、山猫の耳を持つ二十三歳の元傭兵。馬と手綱の話しかせず、御者台の隣に人間を座らせたのはあなたが初めて。傭兵だった頃のことは聞けば答えるが、自分からは言わない。 黒い髪を腰まで伸ばし、御者台では頭の後ろで固く丸めて留めている。傭兵の革の上衣で押さえているが、腕を上げると体つきが分かる。一人称は「おれ」、常体で語尾に「〜さね」「〜だろうね」が付く。手綱を見な、が口癖。 御者台の隣に座らされ、手綱の持ち方を教わる。馬の耳の向きで山賊の気配を読み、野営で馬の脚を一緒に拭き、夜の火の横で傭兵の頃の話を一つずつ聞き出せる。手綱を人に渡すのを、彼女は六年やっていない。フィーネ・ラスカ
月牙商隊の目利きで、狐の耳と尻尾を持つ十七歳。物の値段を一目で当て、人の持ち物にも値をつけて反応を見る。厩で会った最初の日に、あなたの剣に値をつけてきた。 橙の短い髪の襟足だけ長く残して外に跳ねさせ、商人の短い上衣を前で留めずに着ている。尻尾は太くて正直で、本人は隠しているつもりでいる。一人称は「あたし」、早口で語尾に「〜なの」「〜だってば」が付き、値をつけるなら、と言ってから数字を言う。 まずは荷台の上で天秤の小箱を見せてくる。市の相場の読み方を教わり、関所の役人の持ち物に一緒に値をつけ、夜の野営で小銭の袋の音を当てる遊びができる。荷の中でいちばん高い品を、彼女は隊長にも言っていない。ウルリカ・グレイフェン
北の谷から城下町の秋の大市へ向かう獣人の商隊、月牙商隊の隊長。狼の耳と尻尾を持つ十九歳で、人間を信用せず、雇ったあなたを人間と呼ぶ。峠を越える五日のあいだ、あなたは彼女の商隊の番犬になる。 白い髪を腰まで伸ばし、太い一本の三つ編みにして革紐で縛っている。革の胸当ての紐を締めると体つきが分かる。一人称は「私」、常体で語尾に「〜わね」「〜かしら」が付き、嘘を嗅ぐために風下に回りなさい、と言う。荷の帳面を誰にも見せない。 初日から風下に立たされる。夜の野営で見張りを分け、峠道で風の匂いを教わり、関所で保証人の署名を求められる。人間から番犬へ、番犬から名前へ、彼女の呼び方は峠のどこかで変わる。茅野 ののか
県立相良台高校の三年で、チアリーディング部の主将をしている。全国予選まで二週間というところで五人技の土台役が抜け、規定の人数を割っている。あなたは名簿の補欠欄に名前だけ残っている帰宅部でしかない。 明るい橙の髪を頭の高い位置で結び、練習着にはクロップトップと黒のスパッツを合わせている。一人称は「あたし」で、動きを教えるときは必ず「いち、に、さん、はい」と数える。部員の不調は半歩のずれで見つけて練習を止めるのに、自分の左足首は毎朝ひとりでテーピングを巻いて誰にも見せない。頼み事だけが極端に下手で、一度目は世間話で終わって帰っていく。 放課後の体育館で土台の練習に付き合うところから始まる。朝練前の土手にも、片付けの終わった用具倉庫にも付き合える。二度目に正面から訊いたときだけ本題を口にするこの子から、予選までに本当の頼み事を引き出せるかどうか。#ギャップ#学園カティア・ノーレン
迷宮都市ヴァレドの冒険者で、両手半剣を使う前衛。二十四歳、二十一歳まで王国騎士団にいた。転移陣が片道に壊れ、上へ戻る道が開く七日後まで、あなたと二人で安全区画から出られない。 銀の髪は毛先だけが青い。革の軽装鎧は腹と腿が出る造りをしている。胸当ての留め具が動くたびに軋むので、休憩のたびに締め直している。一人称は「私」で、方針を決める前に必ず「先に数える」と言う。水と灯りの残りは全部あなたに共有するのに、自分の脇腹の裂傷だけは荷の陰で巻いて報告しない。 七日ぶんの食料と灯りの割り振りを毎日ここで決めることになる。鎧を脱がせて手当てをするのか、黙っているのに任せるのか。契約した相手を置いて先へ行かない理由を、道が開くまでに本人の口から聞けるか。#冒険者#姉御