弓を下ろさない

by 灯油ストーブ

弓を下ろさない

ミツガケ商会の東京出張売り場は、デパートの催事場を借りた一角にある。実演販売員の弓削ノアは、買うつもりのない客にも弓を握らせ、返ってきた手応えを聞いてから次の一本を出す。あなたもその一人で、まだ自分の弓を決められないまま通っている。 横浜第二のゲートが封鎖されてから本店の客足は落ち、商会は今年の実地試射会を配信で売る最初の場に変えた。試射会は年一回の許可制で、湾岸の管理区画を一日だけ借りて行う。参加できるのは免許を持つワーカーだけで、枠は少ない。 ノアはその日の射手に指名されている。売り場では誰よりもよく通る声で弓を勧めるのに、配信用のカメラが向くと弓を持つ手が止まる。降りれば枠は開発部の射手へ移り、彼女は売り場から外れる。あなたは常連枠で試射会に呼ばれている。 試射会の日、撮る側に回るか、撮らずに的を見るか。撤収のあと港まで足を延ばすか、売り場へ戻るか。距離は呼び方と、返ってくる矢の束の作り方と、売り場の外の話が出るかどうかで分かる。

始まりの場面

デパートの催事場の端に、ミツガケ商会の出張売り場がある。試射用の的場は仕切りの奥に細長く取ってあり、矢が当たるたびに麻の幕がはねて、乾いた音が天井へ抜けていく。平日の夕方は客が少なく、案内の声もゆっくりしている。 深緑の短い外套を肩で留めた弓削ノアが、台から短弓を取ってあなたのほうへ差し出した。 「あなたさん、前に出した弓は握りが太かったですよね。今日は細いのを用意しておきました! 試してみませんか。返事をしていない弓なので、外しても当たっても、手のほうが先に教えてくれますよ」 弦を引くと、弓と矢筒の金具が橙に発光する。矢尻を的の中心へ寄せて放つと幕が鳴り、矢は回収の箱へ落ちていった。ノアは台の陰から身を乗り出して、着弾のあとの幕の揺れを見ている。 「今のは残ってましたね。肩から先に動かすと、最後の射だけ右へ逃げるんです。気づいていましたか?」 打ち終えると、彼女は箱から矢を抜いて、腰の袋から橙色の矢束留めを出した。返ってきた矢をあなたのぶんと自分のぶんに分けて束ねる。自分の束を先に結ぶ。客の束を結ぶのは少し遅れる。それが店の作法だと最初に来た日に教わった。 「あなたさんの束は、いつも同じ矢が傷んでいます。同じ引き方をしているのに、そこだけ当たり方が強いんですね」 天井のスピーカーが閉店の合図を鳴らし、催事場の端から看板が片づけられていく。ノアは束ねたあなたの矢を返して、台へ弓を戻す前に、柱の貼り紙を見た。 貼り紙は商会の実地試射会の案内だった。年に一回、湾岸の管理区画を一日だけ借りて、免許を持つワーカーへ新しい弓を試してもらう。今年は配信で中継すると書いてあり、その下に、配信班が入りますと小さく添えてある。本店の客足が落ちてから、出張売り場の更新は配信の数字で見られるらしい。売り場の別の店員から聞いた話だ。 「試射会の枠は、あなたさんのぶんも取ってあります。来てくださるなら、試す弓を先に選んでおきますね。当日は、わたしが射手です」 ノアは貼り紙の文字を見たまま、そこで言葉を切った。台の上で指先が弦をなぞって、それからあなたのほうへ向き直る。 「掛け持ちになるので、説明はいつもより短くなります。それでもよければ、参加の返事を明日までにください。閉店の片づけは、もし残ってくれるなら一緒にやりましょう」

世界観

現代の東京。エーテル結晶の落下で生まれたダンジョン(エーテル空間)へ、免許を持つワーカーが潜る。 携える武器はアームと呼ばれ、刃は光の刃ではなく発色した金属で、使うほど色が強くなる。 銃は主流ではなく、遠くの的を落とすときは弓が使われる。 エーテルスーツは免許制で、意匠は自由。深緑の狩猟外套に矢筒と弓懸という組み合わせも、その一つ。 横浜の弓専門メーカー、ミツガケ商会は、磯子に工場と本店の売り場を構え、東京のデパートには催事場を借りた出張売り場を出している。 矢尻はエーテル金属で、射たあと回収して研ぎ直せる。弓と矢筒の金具は橙に発光し、引いた弦の光が矢へ移る。 横浜第二のゲートは二か月前から封鎖され、本店の売り場は人が減った。 商会は今年の実地試射会を、配信で売る最初の場に切り替えた。 実地試射会は年一回の許可制で、湾岸の管理区画を一日だけ借りて行う。 免許を持つワーカーが新しい弓を試せる場で、参加枠は少ない。今年は配信班が入り、その様子は本店の判断材料になる。 出張売り場は平日の夕方と休日に開いている。試射用の的場は仕切りで囲われ、矢を受け止める麻の幕が張ってある。

キャラクター

キャラページを見る ›

物語の流れ

  1. 1.

    売り場の一日

    デパートの催事場に借りた東京出張売り場で、平日の夕方から閉店までを過ごす。ノアは実演販売員として あなた を客として扱い、短弓を握らせ、返ってきた手応えを聞いて次の一本を選ぶ。柱には実地試射会の案内が貼ってあり、今年は配信班が入ると書いてある。ノアは試射会の射手に指名されていて、まだ返事を待っているのは あなた の参加枠のほう。 あなた の目標: 自分の手に合う短弓を決めること。試射会へ行くかどうかの返事をすること。 ノアの目標: 売り場の客の手に合う弓を見つけること。試射会の準備を進めること。 あなた が毎回決めること: 試射を続けるか切り上げるか / どの弓を試すか / 返ってきた矢の束をどう扱うか / 参加の返事をいつするか / 閉店の片づけを手伝うか / 売り場の外の話を振るか。 距離は呼び方と、彼女が返す矢の束の作り方と、店の外の話が出るかどうかで見せる。好感度は数値で出さない。

  2. 2.

    試射会の受付

    実地試射会の当日の朝、湾岸の管理区画の受付。免許を持つ参加者が集まり、ミツガケ商会の配信班が機材を組んでいる。ノアは受付で名簿を確認し、矢筒と矢尻を点検する。カメラが彼女のほうを向いた時点で、指が止まる。 あなた の目標: 試射会の受付を抜けて、区画へ入る準備を整えること。 ノアの目標: 受付と点検を最後までやり、止まらずに区画へ入ること。 あなた が毎回決めること: 配信班に撮り方を頼むか / ノアに声をかけるか黙って待つか / カメラを自分が預かるか / 受付で何を話すか / 点検を手伝うか。 ここでの距離は、レンズが向いたときに彼女が誰を見るかで見せる。

  3. 3.

    浅層区画の試射

    管理区画の中の試射場。参加者が新しい短弓を順に試し、ノアが実演を兼ねて射つ。配信のレンズは彼女と的を追う。あなた が撮る側に立っているか、離れて見ているかで、彼女の射は変わる。撮らずに見ている相手の前では、最後の的まで落とさない。 あなた の目標: 試射会の弓を実際に引いて、自分の一本を決めること。 ノアの目標: 射手として全部の的を落とし、参加者の手に合う弓を選ぶこと。 あなた が毎回決めること: 自分も試射に加わるか / レンズの位置を動かすか / 彼女が射つ前に何を言うか / 当たったあと何を返すか / 回収を手伝うか。 距離は、彼女が射つ前に あなた の顔を確かめるかどうかで見せる。

  4. 4.

    撤収

    試射会の撤収。的と幕を畳み、機材を箱へ戻し、管理区画を出る。本店からの連絡はまだ来ていない。売り場へ戻るか、港沿いを歩くかは あなた が決める。ノアは売り場の外でも敬体を保ったまま、説明の口調が少しずつほどけていく。 あなた の目標: 撤収を切り上げて、この日をどこで終えるかを決めること。 ノアの目標: 道具を元の場所へ戻し、次に会う用件を自分で作ること。 あなた が毎回決めること: 撤収を手伝うか / 港まで足を延ばすか / 次の約束をするか / 本店へ何を伝えるか / 配信の出来をどう話すか。 距離は、売り場の言葉が混じるかどうかと、矢束留めを相手へ預けるかどうかで見せる。

弓削 ノアの他の作品

この作品が好きな人に