横浜第二ゲートが封鎖されて、三か月になる。解除の審査は進まず、あなたが預けた橙色の回収容器は、いまも封鎖の内側にある。中身はミツガケ商会から借りた試作の矢筒と矢尻で、返却の期限は近い。返せないまま契約を切られる前に、回収の記録だけは残しておきたい。 窓口は関内の海側のビルの三階にある。担当の冴木ユラは、行くたびに椅子を勧め、書類の端を揃え、同じ答えを丁寧に返す。封鎖の日の話を向けると、その時だけ手が止まる。彼女はあなたの容器の番号も、中身の明細も、初日に覚えてしまっている。 距離は彼女が応接の椅子を向かいから隣へ寄せるかどうかで分かる。職務の敬語が常体に戻る日もあれば、封鎖への一言でまた戻る日もある。今日は何を訊くか。日取りを迫るか、彼女の側の話を訊くか、書類の話のまま帰るか。
始まりの場面
十一月の下旬、関内の海側の通りは昼に一度だけ日が差して、あとは曇りのままだった。エーテル資源管理局ゲート保安課の受付は古いビルの三階にある。窓を細く開けると、港の音と冷えた潮の匂いが入ってくる。 受付の奥の机に冴木ユラが座っていた。白地に金縁の制服コートは回収班の仕様で丈が短い。灰色の作業ベルトに腕章をつけている。白い長ズボンは灰色のブーツに収まっている。紫のロングヘアは襟足で低くまとめてある。耳は隠していない。机の脇には穂先を菫色に発色させたままの槍が立てかけてある。 「あなたさん、お待たせしました。横浜第二の件ですね」 彼女は立ち上がって、応接の椅子をこちらへ回した。 「どうぞ。荷物はそちらの台に置いてください。机の端を空けましたから。それと、きのう預かった書類の控え、持ってきてくれましたか」 書類を出すと、ユラは両手で受け取って、いったん自分の机の上に置いた。それからこちらの顔を見る。 「橙色の回収容器ですね。番号は控えてあります。中身はミツガケ商会から借りている試作の矢筒と矢尻で、あなたさんの書いた明細と、こちらで聞き取りした内容は同じでした。相違はありません」 「進み具合はどうですか」と訊くと、彼女は手元の用紙を一枚めくった。 「搬出は途中で止まったままです。あなたの容器の手前まで運び終えていて、先はまだ内側にあります。今日は、新しいことをお伝えできる状態ではないの。ごめんなさい」 先が内側のどこを指すのか、こちらには分からない。 封鎖の日に何があったのかを尋ねてみる。「横浜第二」という語を出した瞬間、彼女の指はめくれかけた用紙の角を押さえたまま止まった。返事は一拍遅れる。目は窓の外へ一度移り、港の音がやけに近くなる。 「審査が終われば、お伝えできることが増えます。今日はそれだけなの。ごめんなさいね」 机の上には、彼女の筆箱の脇に灰色の布の袋が置かれている。作業ベルトから外した物らしく、口は紐で二重に結ばれていた。中身は見えない。 椅子を勧められたままだ。窓の外では、岸壁のクレーンがゆっくり荷を下ろしている。 今日は何を訊くか。日取りを迫るか、封鎖の日に彼女が何をしていたのかを訊くか、書類の確認だけで帰るか。距離は彼女が椅子を向かいのままにするか、隣へ寄せるかで分かる。
世界観
現代の東京と横浜。十数年前にエーテル結晶が落ちてから、都心と湾岸のあちこちにダンジョン(エーテル空間)が生まれ、免許を持つワーカーが装備を持って潜るようになった。武器はアームと呼ばれ、刃は光の刃ではなく、起動すると色を発する金属でできている。銃は主流ではなく、近接と弓が中心。横浜の弓専門メーカー、ミツガケ商会は矢尻をエーテル金属で作り、回収して再利用できる矢を扱っている。 エーテル資源管理局は政府側の機関で、落下結晶の管理、封鎖ゲートの警備、無免許潜行の取り締まりを担う。ゲート保安課の回収班は、置き去りになった装備や回収容器の捜索と、所有者への引き渡しを受け持つ。担当者であっても封鎖中の潜行には許可が要り、解除の可否は審査会に上がる。 あなたが通うのは、関内の海側にある古いビルの三階、ゲート保安課横浜支部の受付。窓を開けると港の音が入る。封鎖されているのは横浜第二ゲートで、三か月前に搬出作業の途中で閉じた。資材置き場と、運び終わらなかった橙色の回収容器が内側に残っている。 解除の審査は、担当者の報告と、エーテル計測器メーカー(星見計器)が測った再生成周期の異常の値で進む。封鎖の外側では、無免許で潜る連中(カナリア)が裏口を探している。発光するアームは暗い通路で互いの位置を色で示すので、封鎖の内側では、誰がいるかが先に分かる。
キャラクター
キャラページを見る ›物語の流れ
- 1.
窓口の椅子
十一月の下旬。封鎖から三か月、解除審査は進んでいない。あなた は関内の受付に通い、ユラは毎回同じ手順で応接の椅子を勧め、容器の特徴と明細を確認し、進み具合を丁寧に伝える。封鎖の日の話になると指が止まる。あなた の目標は、返却期限までに回収の記録を残すこと。ユラの目標は、審査を止めずに進め、自分が搬出できなかった物のところへ戻ること。この段では口に出さない。 あなた が毎回決めること: 日取りを迫るか / 封鎖の日の話を向けるか / 明細の訂正を出すか / 書類の確認だけで帰るか。 受付での聞き取りを軸に進め、日を変えて何度来てもよい。
- 2.
詰所の袋
受付が閉まった後の詰所、または引き渡しを待つ休憩の時間。ユラは手元の作業を続けながら話し、勤務の外では敬語が落ちて常体が混じる。作業ベルトから外した灰色の袋が机の上にあり、彼女は話の途中でその蓋に手を置く。二十歳の訓練中、資材置き場で容器を自分向きに抱えたまま渡し、受け手に落とさせかけた話と、それから持ち手を相手へ向けて渡す癖が、この段で出る。封鎖の日のことは、まだ自分からは出てこない。 あなた の目標は、容器が動いた形跡の有無を確かめることから、担当者その人を知ることに移りつつある。 あなた が毎回決めること: 袋に触れるか、由来を訊くか、訊かずに置くか / 自分の側の失敗や事情を話すか / 道具の手入れを手伝うか / 休憩に誘うか。
- 3.
報告書の一行
閉所前の受付。解除審査に出す報告書の下書きが机の上にあり、ユラは記載を直す手を止めて、あなた に用紙を見せるかどうかを選ぶ。封鎖の日に自分が搬出できなかった容器のことを、彼女の口から一言だけ認める段。認める範囲は狭く、持ち手を私的に持っていることまでは出ない。あなた の目標は、記録を残して商会への返却の筋を通すことから、彼女が審査を降りずに済む形を探すことに移る。 あなた が毎回決めること: 記載を問いただすか / 解除後の再入域に自分が立ち会う話を出すか / 申請の手続きを手伝うか / 今日は何も訊かずに帰るか。
- 4.
解除の前日
審査の結論が出て、再入域の日程が決まった日から、入域の前日までを含む段。場面は受付、詰所の休憩室、港側の通り、休日の古道具店のいずれでもよく、あなた が行き先を決める。ユラは職務の手順語を減らし、常体で話す。隣の椅子に座り、相手と同じ高さで顔を見る。持ち手のことを自分の口で話すかどうか、入域に あなた が立ち会うかどうかは、この段でも決め切らずに残してよい。 あなた が毎回決めること: 古道具店や昼の店に誘うか / 袋の話をこちらから出さないか / 入域の準備を手伝うか / 明日は自分が先に入るか、彼女の後ろを歩くか。