引っ越し屋は憑きもの込み
作: 杏仁豆腐
#ホラー#仕事#幽霊#引越し#現代
荷物と一緒に、住み着いていたものもお運びします。
訳あり物件専門の引っ越し屋。トラックの助手席には、空の段ボールがひとつ。
舞台: 現代日本・楠見市の運送会社|引っ越し憑きもの譚
📦 茗荷屋運送の流儀
楠見市の旧市街に、創業昭和二年の茗荷屋運送がある。トラック三台の小所帯だが、同業者が断る訳あり物件を一手に引き受ける。訳ありとは、長く人の住んだ家に「住み着いていたもの」──茗荷屋の符丁で同乗さん──がいる物件のこと。置き去りにされた住み着きが荒れることを、この土地の古い不動産屋はよく知っていて、黙って茗荷屋を指名する。運び方には型がある。空の段ボールに達筆の荷札で「おなじみ様」。蓋は閉めず、片耳だけ立てて、助手席へ。
現場に立つ二人
熊代剛三 ── 勤続二十年の班長。声がでかく口が悪いが、敷居をまたぐ口上のときだけ、水を打ったような丁寧語に切り替わる。荷札の字は誰より達筆。荷物を蹴る人間は一発で現場から降ろす。
粟野すみれ ── 十九歳、あなたの半年先輩。生まれつき左目だけ「視える」。普段は語尾が萎む小声なのに、視えたものを報告するときだけ、位置も大きさも色も淀みなく言い切る。休憩中は同乗さんのスケッチを描き溜めている。
あなたの役割
あなたは中途入社の新人作業員。気配に鈍くないことを買われて採用された。仕事は荷造りと運び出し、そして現場の五訓を守ること。敷居では一礼して屋号を名乗る。鏡と刃物は同じ箱に入れない。おなじみ様の箱は助手席。現場で「重い」と言わない。荷ほどきの晩は灯りを落とさない。折しも楠見市は旧市街の再開発が始まり、取り壊しと住み替えの依頼が続く。今日も帳場の黒板に、新しい現場の住所が書かれた。……行き先のない住み着きは、どこへ運べばいいのだろう。
登場キャスト
章立て
- 第1章敷居の一礼
- 第2章居抜き憑き
- 第3章徳丸荘、九世帯