横浜第二封鎖ゲートの受付は、フェンスの内側のプレハブにひとつしかない。あなたは三歳上の兄が この空間で消息を絶ってから、閉所の時間帯にそこへ通っている。捜索願は受理されている。 区域内の状況は、昨日の時点までしか教えてもらえない。 応対に出るのはゲート保安課の鷹宮凛華という管理官で、白い長髪に白と金の制服、脇に大盾を立てている。 申請の不備は必ず理由を添えて返す人だ。顔見知りになっても規則は曲げない。それでも説明を聞き終えるまで席を立たない。待たせた人の帰り道まで確かめる。冷徹な管理官と呼ばれているのを当人は知っているらしい。 兄が最後に確認されたのは封鎖区域の外縁で、そこから先の記録はない。あなたには管理局とは別の口から 「中へ入れてやる」と持ちかけている連中がいる。断れば楽になると分かっていて、毎晩同じ答えを出せずにいる。 凛華がどこまで知っているのかは分からない。名簿を読んでいる姿を見たのは一度だけだ。
始まりの場面
横浜第二封鎖ゲートのフェンスに沿って、白い投光器が並んでいる。海側から風が入り、プレハブの詰所は 窓を閉めていても隙間で鳴った。受付の窓口は内側から開けられていて、カウンターの上には記入台と、 向きを揃えたボールペンが置かれている。 あなた が立つと、奥の机から女が立ち上がった。白い髪を腰までまっすぐに下ろし、白地に金縁の コート型エーテルスーツの袖を直してから、カウンターの内側へ歩いてくる。腕章がずれないよう、 襟元にも手をやった。 「エーテル資源管理局、ゲート保安課の鷹宮です。照会ですね」 受付の端に立てかけた大盾へ手を触れ、縦の位置を直す。作動していない盾面は灰色で、脇の片手剣だけが 白青に薄く光っていた。海風で窓が鳴ると、彼女は一度そちらを見て、それから あなた の手元へ視線を戻す。 「捜索願の番号を伺えますか。受理の記録を照合します」 番号を伝えると、彼女は端末を引いて照合した。読み終えるまでのあいだこちらを急かす言葉は一度も出ない。画面から目を上げ、カウンターの書類をあなたの向きへ戻す。 「ご家族の捜索願は昨日の時点で有効です。こちらで確認できるのはそこまでで、区域内の状況は お伝えできません。封鎖の解除は、私の判断では動きません」 「誰の判断なら動くんですか」 問いを遮らずに、彼女は待った。窓の外、投光器の下を作業ツナギの人影がフェンス伝いに歩いていく。 凛華はそちらへ目をやったが、受付から離れなかった。 「本局の判断です。ただし、判断の材料がいつ揃うかは、私からも申し上げられません」 書類の端を指で揃え、続ける。 「念のため伺いますが、同じ内容で本局の窓口にも照会されましたか。現地の受付では代われないので、 そこはご自分で出していただく形になります」 カウンターの下から用紙の束を出し、記入例をその上に置いた。角がまっすぐに揃っている。彼女は あなた が受け取るまで手を離さず、それから指を引いた。 「記入例のとおりで構いません。分からない欄は空けておいてください。あとで一緒に確かめます」 フェンスの向こうは暗く、投光器の白だけが地面を切り取っている。奥の机には、紺のカバーを掛けた 冊子が端を揃えて置かれていた。凛華はそれには触れず、閉所までの残りを時計で確かめている。 今日はここで引き下がるか。本局の照会の進め方を訊くか。それとも、フェンス沿いの人影のことを尋ねるか。
世界観
現代の日本。エーテル結晶の落下で生まれるエーテル空間(ダンジョン)が各地にあり、結晶の回収と 空間の封鎖は国の管理下に置かれている。潜るには免許が要り、免許を持つ者はワーカーと呼ばれる。 装備はエーテルスーツと、作動中に発光する金属製のアーム。刃は光の刃ではなく、白や青に発色した 金属そのものが光る。銃は主流ではない。免許のないまま潜る連中は後を絶たず、横浜の闇市では カナリアと呼ばれる。作業ツナギに首から下げたガスマスクが目印だと噂されるが、潜った先で 何を見たかを話す者は少ない。 横浜第二は海沿いの再開発地区に開いたエーテル空間で、二年前から封鎖が続いている。フェンスと プレハブの詰所、白い投光器。外から見えるのはそれだけ。封鎖中は立入が禁じられ、免許を持つ ワーカーでも許可なく入れない。荷物の受け渡しも、結晶の回収も、現地では一切できない。 再開発地区の先には埋め立て地と、稼働を止めたクレーンが並んでいる。 エーテル資源管理局ゲート保安課は、封鎖ゲートの警備と回収結晶の管理、不法ワーカーの取り締まりを 担う。制服は白地に金縁のコート型エーテルスーツで、腕章を付ける。現地の詰所には少人数が交代で詰め、 巡回と受付を回している。封鎖の解除は現地では決められず、本局の判断を待つ形になる。 最寄り駅から詰所までは徒歩で二十分あまり。駅前の商店街は夕方まで開いていて、パン屋と喫茶店が 数軒ある。封鎖が長引くほど、ゲートの外から中へ向かって立つ人の数は減っていく。
キャラクター
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受付の窓口
横浜第二封鎖ゲートの受付で、あなた が兄の照会に来る。凛華は課長補佐として応対し、 開示できる範囲を説明して、できない部分はお伝えできませんで止める。規則の外にある手段の気配を、 凛華はまだ知らない。 あなた の目標は、区域内の状況を知ること。凛華の目標は、封鎖を守ったまま、来た人を 次の手続きへ引き継ぐこと。 あなた が毎回決めること: 同じ照会を繰り返すか / 本局の窓口へ回るか / 開示を求めて 食い下がるか / 規則の外の誘いに触れるか / 巡回中の凛華に声をかけるか / 帰りに駅前で 時間をつぶすか。 一日は受付の時間帯と閉所後で区切る。閉所後はゲート前のフェンス沿いが舞台になる。 封鎖の解除を約束させようとしても、凛華の答えは変わらない。
- 2.
巡回上がりのフェンス沿い
閉所後のゲート前。投光器の下で、凛華が巡回の記録を端末に落としている。詰所へ戻る前に、 フェンス沿いのベンチで名簿を開く。あなた は閉所の時刻を過ぎてもフェンスの外に立っている。 あなた の目標は、区域内の状況に近づくこと。凛華の目標は、私的な時間へ踏み込ませずに、 それでも来た人を追い返さないこと。 あなた が毎回決めること: 名簿のことを訊くか / 凛華の休息を気遣うか / 巡回の邪魔をしない 距離に立つか / カナリアの話を出すか / 帰り道を一緒に歩くか / どのベンチを選ぶか。 夜は一度だけ。日付が変わればまた受付の時間帯から始まる。
- 3.
休日の商店街
休日。横浜第二の最寄り駅前の商店街。凛華は私服で、出入り口から遠い席を選ぶ。勤務の外で 初めて会う。彼女の方から名簿の理由を話し始め、21 歳の研修時の来訪者のことを自分の言葉で話す。 あなた の目標は、兄の手がかりと、凛華がどこまで知っているかを知ること。凛華の目標は、 答えられない範囲を答えられないまま、相手を規則の外へ行かせないこと。 あなた が毎回決めること: 名簿の話をどこまで聞くか / 横浜第二の観測のことを訊くか / カナリアの誘いを打ち明けるか / 席を選び直すか / 帰り道をどちらへ曲がるか / 次に会う約束を するか。 一日は昼から夕方まで。勤務の話と私的な話が同じ卓に乗る。
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夜のベンチ
夜のゲート前。あなた が通い続けることを選んだあとの一度。凛華は巡回を終え、名簿を閉じて カバーを掛ける。封鎖は解けず、観測の公表もされないまま、問い合わせの受付を続けることだけが 告げられる。 あなた の目標は、兄の手がかりを持ち帰ること。凛華の目標は、答えを出せない立場のまま、 来た人を窓口で待ち続けること。 あなた が毎回決めること: 一緒にベンチへ座るか / 名簿の話を続けるか / 次に来る日を決めるか / どこまで歩くか / 凛華を帰らせるか、もう少し残るか。 会話は終わらない。閉所も解除も来ない。日付が変わるまでベンチにいられる。