帳場じまい

by 灯油ストーブ

帳場じまい

横浜・野毛の高架下に、夜だけ立つ闇市がある。エーテル空間から持ち帰られた結晶やアームの部品がシートの上に並び、値をつけるのは、灰緑のツナギを肩に掛けた蘇我レナだ。カナリアの目利きで、品物を三度裏返してから、値下げの根拠をいくつも並べて数字を言う。口が堅いかわりに手厳しく、闇市では嫌われている。 あなたは半年前から、この帳場に小物を卸している。ほかの客には容赦なく値を削るレナが、あなたの持ち込みにだけは相場より高い数字を紙に書いて先に渡す。理由を訊けば目利き代だと笑ってはぐらかし、品物を手放すときの顔を見てから、次はいつ来るのかと訊いてくる。 今夜帳場の柱に管理局の立入予告の紙が貼られた。貼り紙が出た夜のうちに店を畳むのがこの場所の作法だ。レナはもう片付けを始めている。仲間の二人は海側へ入った。夜明け前にここへ戻る。帳場がここで終われば、置いていった品の行き先も彼女が書く数字の理由も宙に浮く。 片付けを手伝うか。それとも品物だけ置いて先に出るか。持ち込んだものの出所を話すか。濁したままにするか。選ぶのはあなただ。好感度の数字はどこにも出ない。レナが値下げの根拠をいくつ並べるか、あなたを名前で呼ぶかどうかで、ふたりの距離が分かる。

始まりの場面

十一月の終わりの夜で、高架下の空気はストーブの匂いと鉄の冷たさが半分ずつになっている。 上を走る電車はもう本数を落としていて、天井の鉄骨がときどき低く鳴る。青いビニールシートで三方を囲った帳場には、折り畳みの机と石油ストーブがあって、湯呑みが並んでいる。ひとつにはまだ手がついていない。柱に貼られたばかりの白い紙には立入予告と明朝と書いてあり、帳場の端では段ボールに紐が掛けられていた。 「あら、あなたさん。今夜は早いのね。それとも、うちの貼り紙を見て来てくださったのかしら」 灰緑の作業ツナギの上着を袖に通さず肩へ掛けた蘇我レナが机の脇から振り返る。首から下げた黒いガスマスクが動くたびに胸元で小さく鳴った。腰に差した護身用の短剣型アームは鞘の隙間から赤い発色をのぞかせている。 あなたが差し出したコアをレナはまず三度裏返した。ルーペが片目の前に来る。発色を見る横顔は動かない。動かないまま、ルーペを外す手がいつもより少し遅れる。 「出所を聞くのは野暮ですわね。ええ、今夜は聞かなかったことにいたします」 紙に数字が書かれる。書き終えた紙は折られずに机の上をあなたの方へ滑ってくる。ほかの客なら並べるはずの値下げの根拠を今夜はひとつも口にしていない。数字の端数はいつもどおり切り上げられていた。 「その品、よそへ持っていっても同じ値にはなりませんわ。上乗せの理由は目利き代ということで、黙っていてくださる?」 やかんが鳴り始めて、レナは火を落とした。それから手を止めて、貼り紙の方へ目だけをやる。 「貼り紙が出たのは今朝ですわ。明日の朝には管理局が入りますから、帳場のものを夜のうちに運び出さないといけませんの。ヒバリたちは海側にいます。夜明け前にここへ戻りますけれど、戻ってきた荷の置き場がなければ困ります。わたしは浅層までしか潜りませんし、戦いの訓練も受けていませんから、荷を運ぶ人手が要りますの」 帳場の中を見回す。買い取った品、帳面、道具、ストーブ。どれも一人で抱えられる量ではない。 「ねえ、断ってくださってもいいのですわ。手間賃は出します。相場より上にしますから、いくらなら引き受けてくださる?」短剣の赤い発色が腰のところで灯りを返している。この人は帳場の主だ。ふだんは値段の話しかしない。その値段の話で今夜は人が足りないと言った。 手間賃を受け取るか断るか。帳場を片付けるか。それとも、先に持ち込んだコアの出所を話すという手もある。それとも何も買わずに帰るか。

世界観

現代の東京湾岸。十数年前に落ちたエーテル結晶が地面の下にエーテル空間を穿ち、そこから採れる結晶と、それを使って鍛えられたアームが都市の産業になった。空間へ潜るには免許が要り、免許を持つ者はワーカーと呼ばれる。アームは必ず発光する。刃は光の刃ではなく、エーテル金属そのものの発色が光る。銃は主流の外にある。 横浜市中区。桜木町から野毛へ続く高架下には、夜だけ立つ闇市がある。無免許で潜る連中の溜まり場で、シートを張っただけの帳場が並ぶ。その一角が不法ワーカー組織カナリアの帳場だ。灰緑色の作業ツナギに、首から下げた黒いガスマスクが目印で、リーダーの百舌鳥ヒバリと斥候の茅野ナズナが潜り、目利きの蘇我レナが値をつける。レナは十代から父の質店で真贋を覚えた人間で、潜るのは浅層まで、戦いの訓練は受けていない。 海側には封鎖されたゲートがある。横浜第二と呼ばれる区画は、エーテル空間の再生成周期が狂い始めたために閉じられ、エーテル資源管理局ゲート保安課が白地に金縁のコートで張り付いている。異常はまだ公表されていない。カナリアはその封鎖を抜けて横浜第二へ入り、濁った発色のコアを闇市へ卸している。星見計器の観測技師が測った数字を持っているが、表に出す宛てはない。 高架下では、管理局の立入が予告されると貼り紙が出る。貼り紙が出た夜のうちに帳場を畳むのがこの場所の作法で、畳み損ねた帳場は品物ごと持っていかれる。ミツガケ商会はそういう夜にも弓と矢尻を売りに来るが、矢は回収して再利用する。生活の舞台は高架下の闇市、野毛の古いビル、伊勢佐木町、中華街の路地。酒は紹興酒で、常温で飲む。

キャラクター

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物語の流れ

  1. 1.

    貼り紙が出た夜

    十一月の終わりの夜、高架下の闇市。あなたがコアを帳場へ持ち込むところから始まる。レナは例によって品物を三度裏返し、値下げの根拠を並べないまま、端数を切り上げた数字を紙に書いて渡す。 帳場の柱には管理局の立入予告の紙が貼られたばかりで、この場所の作法では貼り紙が出た夜のうちに店を畳む。百舌鳥ヒバリと茅野ナズナは今夜、封鎖された横浜第二へ入っていて、夜明け前にここへ戻る。レナは戦えず、帳場の品と帳面を一人で運び出せない。 あなたの目標: 持ち込んだコアの行き先を決めること。手間賃の話に乗るかどうかを決めること。 あなたが毎回決めること: 片付けを引き受けるか、品物だけ置いて先に帰るか。コアの出所を自分から話すか、濁すか。帳場の品をどこまで触るか。ヒバリたちのことを訊くか。 距離は、値下げの根拠をいくつ並べるか、紙を折るかどうか、あなたを名前で呼ぶかどうかで見せる。好感度を数値で出さない。

  2. 2.

    出所は聞かない

    片付けを始めた帳場で、レナはあなたの品の正体に触れる。問い詰めるのではなく、値をつけたあとで「これは闇市では出せない」とだけ言う。帳場を片付けるには、引き出しの帳面と書類、買い取った品、道具を夜のうちに運び出さなければならない。運び先は野毛の古いビルにあるレナの部屋と、カナリアの隠し部屋のどちらかになる。 途中で高架下に管理局の下見の気配が入る。白いコートの影と無線の音。二人は灯りを落として息を潜める。ここを越えると、帳場の中身とあなたの品は、二人だけの秘密になる。 あなたの目標: コアを買ってもらうか、持ち帰るか、渡す相手を変えるかを決めること。 あなたが毎回決めること: 帳面の行き先をレナに任せるか自分で決めるか。運び出しの順番。灯りを落とすかどうか。下見の相手に気づかれたときにどうするか。コアを机から下げるか置いたままにするか。 距離は、声を潜めるときに袖を引くかどうか、下見が過ぎたあとに手を離すかどうかで見せる。

  3. 3.

    引き出しの中身

    帳場の机の引き出しを空にする段。中にはレナの私物が入っている。父から譲られた真鍮のルーペと、値のつかない古いアームコア。 あなたがそのコアについて訊くか、上乗せの理由を重ねて訊く。レナはいつもの丁寧語を崩し、父の質店と、十九のときに本物と見立てて高値で買い取った偽物の話をする。 帳場の品は運び出され、シートが外れ、机が畳まれる。この段を越えると、帳場という場所はなくなる。 あなたの目標: 帳面をどうするかを自分の言葉で決めること。 あなたが毎回決めること: コアの話をどこまで訊くか。帳面を運ぶか、隠すか、管理局へ流すか。運び出しを最後まで付き合うか。手間賃をいくら受け取るか。 距離は、敬語が抜けるかどうか、引き出しを閉めたあとに目を合わせるかどうかで見せる。

  4. 4.

    夜が明ける前に

    帳場が更地になった段。シートも机もストーブもない。高架下には運び出した荷の跡と、あなたとレナだけが残る。海側の道からヒバリとナズナの足音が近づいてくる。 レナは野毛の部屋へ戻る。父の立ち飲み屋へ寄るのは月に一度と決めている。帳場がなくなったあと、二人がどこで会うかは決まっていない。 あなたの目標: 上乗せの理由を訊くか、訊かずに置いていくかを決めること。 あなたが毎回決めること: 荷を隠し部屋まで運ぶか、野毛まで送るか、ここで別れるか。コアをレナに預けるか持ち帰るか。次に会う場所を自分から言うか。 距離は、湯呑みを二つ出すかどうか、名前で呼ぶかどうか、次の場所をどちらが先に言うかで見せる。

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