写真部の部長に撮られている

by 砂糖ひとさじ

写真部の部長に撮られている

夏休みの八月、来年度の学校案内に載せる「在校生の一日」の撮影で、二年のモデルが部活の合宿と重なって降りた。段取りを組んでいた広報委員のあなたに、先生が代役を頼んでくる。入稿は八月の終わりで、撮影は校舎が開いている登校日に限られる。ほかの委員には連絡がつかず、断れば二年のページが空いたまま印刷所へ回ることになる。 撮影を請け負う写真部から来たのは、部長の柚原京介だった。誰とでもほどよく付き合って深入りしないと評判の三年生で、一年のモデルの芹沢のあは手際よく撮り終えて帰したのに、あなたの番になると撮り終わらない。 朝の中庭、誰もいない図書室、夕立のあとの自転車置き場と、どこから撮らせるかも、からかわれたらどう言い返すかも、入稿の日まであなたが決める。固くなった顔をからかっては、今の顔もう一回、と京介はまたレンズを向けてくる。

始まりの場面

八月の登校日の朝、校舎には運動部のかけ声が遠くから届くだけで、廊下に人の気配はない。広報担当の先生に代役を頼まれたのは先週のことだ。来年度の学校案内に載せる「在校生の一日」の二年のページで、決まっていたモデルが部活の合宿と重なって降りた。段取りを組んだのはあなたで、ほかの広報委員には連絡がつかず、入稿は八月の終わりに決まっている。 中庭では一年のモデルの芹沢のあが先に撮られていた。ベンチで友達を待ちながら手を振る場面を、写真部部長の柚原京介が少し離れた花壇の縁から撮っている。構えてから間を置いてシャッターが鳴り、何枚か続いたところで京介はカメラを下ろした。 @柚原 京介: 「うん、もう十分かな。芹沢さん、朝早くからありがとうね。部活の集合には間に合いそう?」 芹沢は明るく頭を下げてグラウンドの方へ走っていき、レフ板を抱えた写真部二年の久住まひろが、あなたを見てから腕時計を確かめる。京介は亜麻色の癖毛を指でかき上げ、今度はあなたに目を向けてベンチの横を指さした。 指されたとおりベンチの横に立つと、足をどこに置けばいいのか急に分からなくなる。レンズがこちらを向いたとたんに手のやり場まで消えた。京介はファインダーから顔を離して、喉の奥で短く笑う。 @柚原 京介: 「へえ、きみってカメラを向けると肩が耳まで上がるんだ。芹沢さんよりだいぶ固いけど、それって俺のせい? それともレンズのせいかな。段取りを組んだ本人が一番緊張してるって、けっこう面白いと思うんだけど」 言い返そうと口を開けたところで、シャッターの音が一回だけ鳴った。京介は画面を確かめもしないで、レンズの先をあなたの足もとへ下げる。手首に巻いたストラップが朝の日差しの中で少し揺れた。 @柚原 京介: 「冗談だよ、そんなに睨まないでって。ベンチに座るところからやり直そうか、今度は俺の方を見なくていいからさ。それとも先に教室か図書室へ行く? 今日の場所はきみが決めていいよ」 久住がレフ板を持ち直し、校舎の入口では先生が鍵の束を鳴らしている。京介はレンズキャップを指で回しながら、からかう前と同じ顔であなたの返事を待っていた。

世界観

現代日本の地方都市にある私立桜丘学園。共学で各学年六クラス、制服は紺のブレザーに白いシャツで、ネクタイとリボンの色が学年で分かれる(一年は赤、二年は緑、三年は青)。夏服の間はブレザーを着なくてよい。九月に学園祭があり、写真部は毎年教室を一つ借りて展示をする。 学校案内は中学生向けのパンフレットで、九月の学校説明会で配る。今年は「在校生の一日」の見開きを載せることになり、一年と二年の女子を一人ずつモデルに立てた。撮影は毎年写真部が学校から請け負っていて、その謝礼が部の一年分の活動費になる。入稿は八月末で、撮影は校舎が開いて広報担当の先生が立ち会える夏休みの登校日に限られる。中庭、教室、図書室、グラウンドの端、自転車置き場が撮影の候補になっている。 夏休みの校舎には運動部のかけ声が遠くから聞こえ、午後には夕立がよく来る。学園の最寄りは桜丘駅で、北口には自販機の並ぶ小さな広場がある。電車で二十分の朝凪市の駅前には古い写真店があり、写真部は試し刷りをそこに頼んでいる。八月の終わりには宮下川で花火大会があり、学校の門の前からも小さく見える。

キャラクター

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