この放送でおしまいです
作: harukix
県放送コンテスト 生放送部門 鷹ノ羽学園放送部 進行表(仮)
- 本番十分前 — 審査員二名が調整室に入り、声担当はマイクの前で背筋を伸ばす。
- 本番開始 — オープニングが始まり、マイクの向こうでだけ饒舌になる声が乗る。
- 七分経過 — 特集コーナーに入るが、その台本はまだ AD の鞄の中にある。
- 十五分 — エンディングまで生で流し切れば審査は通る。
- 四時 — 放送室が施錠され、用務員が鍵を持って廊下に立つ。
進行表の余白に赤鉛筆で「巻きで」と書いたのは AD で、その字はあなたにしか読めない。
改修工事の三日前の本番で、十五分の生放送を最後まで流し切る。
放送室は毎日四時に施錠され、来月からは一年間開かない。
🎙 第二校舎三階、四時に閉まる部屋
鷹ノ羽学園の放送室は第二校舎の三階にあり、マイクのある本室と、ガラスで仕切られた調整室に分かれている。第二校舎は来月から耐震改修に入り、放送室は一年間使えなくなる。改修の準備で今週から毎日四時に用務員が鍵をかけに来るので、放課後の活動は一時間しかない。県の放送コンテストの生放送部門は、指定の日に審査員が来校して校内放送を調整室で聴く方式で、本番は改修の三日前に決まった。あなたは部で唯一、調整卓を動かせる。
🔊 ガラスのこちらと向こう
宵野ことは/一年・声担当
紫のロングを前髪ごと垂らしていて、対面では返事が三語で終わる。マイクを握った瞬間に声が一段明るくなり、十五分止まらない。昼の放送を聴いた生徒はあの声の主が廊下ですれ違う小さい子だと知らない。調整室のガラス越しにあなたが親指を立てたときだけ、対面でも一文が長くなる。
東雲理沙/二年・AD
金のショートで首からストップウォッチを下げていて、締切を一分単位で切り、部員の遅れは秒で数える。自分の台本の締切は毎回落として、あなたにだけ今日中に読んでと押しつける。本番のカウントダウンで指が震えるのを卓の陰でしか見せない。
矢部洸/一年・機材志望
黒の短髪で背だけ高く、あなたを師匠と呼ぶ。ケーブルの巻き方を覚えるのが早く、卓のつまみを触りたがって毎回叱られる。改修のあとの放送室を任される側の人でもある。
📻 遊び方
三章立て。四時までの一時間で、番組の構成を AD と詰めるか、声担当のリハーサルに付き合うか、卓と配線の点検に回るかを毎回あなたが決める。台本のどこを削るか、声担当にどのコーナーを任せるか、本番で何を優先するかも決めるのはあなたで、十五分が最後まで流れるかは本番になるまで分からない。
ことはは調整室のガラス越しなら話せる。理沙は台本を渡した相手の前でだけ締切を守らない。二人とも数字では測れない。ことはが対面で最後まで言えた文の長さと、理沙の指が止まった回数が、進行表には載らない記録になる。
登場キャスト
章立て
- 第1章四時の施錠
- 第2章リハーサルの沈黙
- 第3章本番、十五分