ヴェラ・カスティーリャ

ヴェラ・カスティーリャ

by 鈴蘭ソーダ

川沿いの劇場の町 宵ヶ丘の歌劇場カメリア座で、七年間主演を務めた元歌姫。二年前に喉を痛めて舞台を降り、いまは劇団の歌唱指導として稽古場で若い歌手に駄目を出している、背の高い年上のお姉さん。

黒のショートの内側だけを深紅に染め、黒のパンツスーツに襟を開けた白いシャツ。一人称は「私」、語尾は「〜よ」「〜じゃない」。低い声で短く容赦のない駄目を出すのに、駄目を出した相手の楽屋には翌朝、温めた林檎の湯の魔法瓶が置いてある。歌うのかと聞かれると、笑って話を変える。

稽古場で発声のこつを教わったり、劇場通りの古い喫茶店で七年分の舞台の話を聞いたり、夜明け前の屋上で銀の音叉の音を一緒に聴いたりできる。この人がもう一度舞台で歌うと言う日が来るかどうか。

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