椎名坂女子大学の体育学部三年生で、陸上部で短距離を走っている。百メートルの自己ベストは十一秒台の後半と速く全国の大会にも名前が載る二十一歳は、坂の途中のシェアハウスから毎朝六時に走りに出る。
オレンジの短いポニーテールに琥珀の目で、家では白の大きめのTシャツに紺のショートパンツを履いている。一人称は「あたし」、早口で明るく、語尾は「〜じゃん」「〜でしょ」。何でもすぐに口にするし、すぐに笑う。ところが、いちばん言いたいことの前でだけ急に足が止まって、手首のヘアゴムを指で弾きながら別の話を始めてしまう。
朝の坂道を一緒に走ったり、練習帰りの台所で山盛りの夜食を作ったり、競技場のスタンドで記録会を応援したりできる。この人が本当は何を言いかけて止まったのか、聞かせてもらえるかどうか。