怪奇ファイルNo.042 月見の雫

by 黒猫

怪奇ファイルNo.042 月見の雫

物語の導入

8月の夜、アパートの共用スペースで冷たい麦茶を飲んでいると、階段を上がってくる足音が聞こえた。顔を上げると、グレーのパーカーを着た霧島先輩が、だるそうに手を振りながら近づいてくる。「お前、まだ起きてたのか。珍しいな」そう言って隣に腰を下ろすと、首から下げた和柄のお守りが揺れた。先輩はスマホの画面をちらりと見せてくる。「『月見の雫』って知ってるか?満月の夜に公園に出る水で、飲むと不老になるって話。ネットでちょっと話題になってる」口調はいつも通りぶっきらぼうだが、その目はどこか真剣だ。「俺、明日の夜に青海ヶ丘公園まで確かめに行くつもりなんだけど——お前、暇なら付き合えよ」

世界観

現代日本。夏休み中の大学近辺と、都内の青海ヶ丘公園が主な舞台

キャラクター

物語の流れ

  1. 1.

    噂の始まり

    「月見の雫」の噂を二人で洗い直すところから始まる。ネットの書き込み、まとめ記事、体験談を辿ると、噂の出所が意外と古いこと、そして同じ時期に何人か連絡が取れなくなっている人間がいることが見えてくる。まだ現地には行かず、部屋やファミレスで情報を突き合わせる段階。

  2. 2.

    満月の夜、青海ヶ丘公園

    満月の深夜、公園を歩き回って噂の水を探す。やがて木立の奥、窪んだ地面に満月を映した水面を見つける。銀色に見えるほど澄んでいて、あたりには金属めいた匂いがかすかにある。ここで手がかりが二方向に開ける。ひとつは超常の線(水面に映る月が実際の月とずれている、霧島のお守りが妙に冷たい、近くに落ちている古い時代の遺留品)。もうひとつは現実の線(地面の変色、公園の隅にある古い配管、フェンス越しに見える対岸の工場)。二人がどちらを重く見るかで、この事件の色が決まる。

    →超常の線 · 3. 【オカルト】月見人の文献→現実の線 · 5. 【現実】水銀盗難の裏側
  3. 3.

    【オカルト】月見人の文献

    行方不明者の足取りを辿ると、全員が噂を追って公園へ行っていたことが分かる。図書館の郷土史や古い写本に「月見人」の記述が見つかる。曰く、雫を嚥下した者は不老と膂力を得るが、日の光に灼かれ、常の食を受け付けず、水銀を糧とするようになる。並行して、対岸の工場で水銀が消えた事件の記録に行き当たる。霧島のお守りは公園に近づくほど冷たくなり、彼自身が説明できずに苛立つ。

  4. 4.

    【解決・オカルト】銀の水

    満月の下で答えに行き着く。雫の材料は、かつてそれを飲んだ人間そのもの。月見人は日の光に灼かれると体が液状化し、銀色に近い水になる。窪地に溜まっていたのは、先に消えた者たちの成れの果てだった。そこへ、この現象を管理している何者かが姿を見せる。敵意は示さず、二人が辿り着いたことを面白がるような態度で、深追いするなとだけ告げて夜の中へ引く。名も目的も明かさないまま、また会うことになると匂わせて。

    結末
  5. 5.

    【現実】水銀盗難の裏側

    公園の土と水を調べ、対岸の工場を洗う。過去の水銀盗難事件の記事に不自然な点が見つかる。届け出の数字と在庫が合わず、盗難として処理された分は、実際には敷地外へ流れ出ていた。公園の地下は古い廃棄物で汚染されており、満月の大潮に合わせて地下水位が上がると、汚染された水が窪地に湧き出す。飲んだ人間は中毒による一時的な興奮状態になり、身体能力が上がったように錯覚する。噂の正体はこれだった。

  6. 6.

    【解決・現実】摘発

    集めた資料を然るべき窓口へ持ち込む。数日後、工場に立ち入りが入り、長年の不法投棄と隠蔽が明るみに出る。公園は一部が立ち入り禁止になり、噂は急速に萎んでいく。二人はニュースを部屋で眺めながら、あの夜に見た銀色の水面を思い返す。怪異はいなかった。それでも、あの水を飲んで消えた人間が確かにいたことだけは残る。

    結末
怪奇ファイルNo.042 月見の雫 | fiabai