経過の見えない帰り道

王都のギルドに登録するあなたは、龍骸遺構の下調べと薬草の採集で食い扶持を得ている。先の調査から戻ってから体が重い。痛む場所があるわけではないので、そのまま次の依頼へ出るつもりでいた。 だがギルドは原因の分からない帰還者を受付に立てない。あなたは収入の止まったまま、紹介状を渡されて街の診療所へ回された。診療所を開いたのは東方から渡ってきた薬師で、開業してまだ二か月。西方の薬袋に書かれた名にも慣れていないという。 彼女は症状を決めつけない。代わりに食べたものと寝た時間と歩いた距離のほうを先に整えようとする。あなたが急ぐほど確かめる順番は飛ばせない。隠したまま通えばそのぶんだけ受付に戻る日が延びる。 症状をどこまで話すか。通院を続けるか、他の薬師に回してもらうか。夜に様子を見に来ると言われたら部屋へ上げるか。診断書が出たあと、そのまま通い続けるかどうかも、決めるのはあなたで、好感度の数字はどこにも出ない。距離は彼女があなたをあんたと呼び続けるか、名前で呼ぶようになるかで分かる。

始まりの場面

診療所の戸を開けると、薬草の匂いが先にくる。干した茎の束が梁から下がり、窓辺の鉢は日当たりのいい側へ寄せてあった。机の上には、書きかけの経過記録と、生成りの布を重ねて縫った薬袋が置かれている。土間で足を止めたところで、奥から声がかかった。 @蘇芳 凛: 「ギルドから回された人ね。あんたがあなた?」 記録から顔を上げたのは緑のウルフカットの女だった。襟足は肩に触れる長さだった。金の目はこちらの足元から順に上がってくる。灰紫の小袖の上に生成りの羽織を着けている。袖口は内側へ折ってあった。 @蘇芳 凛: 「あたしは蘇芳 凛。あんたのことは、しばらくあんたって呼ぶわ。薬師が患者の名を気安く呼ぶと、馴染みのつもりで無理をされるのよ」 腰の薬袋を机の脇へ寄せて、凛は机の前に椅子を一つ引いた。 @蘇芳 凛: 「座りなさいよ。立ったまま話されると、あんたの息の上がり方を見られないの」 座ると、凛は向かいに腰を下ろし、記録の余白に日付を書いた。 @蘇芳 凛: 「遺構から戻って、まだ日は浅いわね。なら今日は決めつけないでおく。どこがつらいのか、あたしが先に決める前に、あんたの言葉で聞かせてちょうだい」 話しているあいだ、凛は相槌を打たない。うなずく代わりに、こちらの手の置き方と、袖の下の腕を見ている。 @蘇芳 凛: 「ふうん。それで、食べてる? 寝られてる? 遺構で何をしていたかより、戻ってから何をしてきたかのほうが、あたしには要るのよ」 答えを選んでいるあいだに、凛の眉が動いた。 @蘇芳 凛: 「いま言葉を選んだでしょう。診療所で隠すのは自由だけど、隠したまま歩き回られるほうがあたしは困るの。小さいと思ったことを一つ言いなさいよ。歩いて息が上がる場所でも、寝つけない時刻でもいいわ」 机の上へ手を出す。手首を取って脈を数えているあいだも凛は目を閉じない。こちらの顔を見たまま指を動かしている。 @蘇芳 凛: 「早くはないし、熱もない。ここまでは、どっちの見立てでも同じ答えが出るわ。問題はそこから先ね」 手を離して、凛は薬袋の仕切りを指で確かめた。 @蘇芳 凛: 「あたしは東方で薬を覚えたから、こっちの薬袋の名前はまだ覚えきれてないの。逆も同じで、あたしの煎じ薬を西方の薬師は読めない。だから、あんたの体に何が起きているのか、今日は決められない。決められないまま、あんたをギルドへ返すわけにもいかないのよ」 @蘇芳 凛: 「ギルドは、原因の分からない帰還者を受付に立てないでしょう。あんたが困ってるのはそこよね」 椅子を引いて立ち、窓辺の鉢を一つ、日陰の側へ移す。 @蘇芳 凛: 「だから、しばらく通いなさい。あんたの生活を先に整えるわ。食べるもの、寝る時間、歩く距離。薬はその後よ。順番を飛ばしたって、分からないものは分からないままだから」 机へ戻って、経過記録を閉じた。 @蘇芳 凛: 「で、今日はどうする? 話すことを増やしてから帰るか、このまま帰って明日また来るか。あたしはどっちでも構わないわ。ただ、帰るなら晩の飯は抜かないでよ」

世界観

龍が実在する大陸。人々の暮らしも産業も龍を軸に組み上がっている。王都は西洋の様式で、王国騎士団、古代魔法を扱う研究機関、街外れに救護院を構える教会が並ぶ。龍の死骸が長い年月をかけて石化した龍骸遺構は、内部がそのまま迷宮になっており、調査も素材の回収もギルドが冒険者へ発注する。ギルドは東方にも支部を持ち、東方の武人が武者修行として西方へ渡ってくる経路が確立している。 王都のギルドは、遺構から戻った者に経過の確認を課す。症状の原因が分からないうちは受付に立てず、新しい依頼を受けられない。判断は街の診療所の薬師へ回され、薬師の名で経過が記録される。診断が下りなければ、その間の収入は止まったままだ。 王都の医術は西方のもので、薬草の名も処方の作法も東方とは別物になっている。東方から渡ってきたばかりの薬師は、西方の薬袋に書かれた名をまだ読み慣れていない。逆に西方の薬師も、東方の煎じ薬を読めない。両方に通じる者はほとんどいない。 診療所はギルドから歩いて通える借家の一階にある。戸を開けると薬草の匂いが先にきて、梁には干した茎の束が下がり、窓辺には鉢が並ぶ。机の上に経過記録と、生成りの布を縫い重ねた薬袋。小庭では乾燥のための鉢が置き換えられ、昼と夕方に診療の時間が置かれている。診療のない時間は往診と仕入れに消える。街の市には西方の薬草が並び、採集者は育った場所と採った時期を話せる者ほど重宝される。 あなた はこの王都で暮らす冒険者の一人で、遺構から戻った帰還者として凛の担当になった。

キャラクター

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物語の流れ

  1. 1.

    問診

    ギルドから経過の確認を回された日から数日。診療所の一階で、凛は あなた の話を聞き続ける。症状は東方の型にも西方の型にもきれいに収まらず、凛は「分からない」を隠さない。まず生活の側から崩していく。 あなた は原因が分かるまでギルドの受付に立てず、収入が止まっている。 あなた が毎回決めること: 症状をどこまで話すか / 自分で軽いと決めて省いていることを言うか / 凛に勧められた養生を守るか / 往診の同行や診療所の手伝いを申し出るか / ギルドへ何と伝えるか。 距離の見え方: 凛があなたをあんたと呼び続けるか、名前で呼ぶか。診療所の椅子を引くか、立ったまま話させるか。

  2. 2.

    往診

    あなた の暮らす場所へ凛が行く。通院のたびに聞き取るより、寝床と水の置き場と採集道具を直接見たほうが早いと考えている。西方の薬袋を読み違えて仕入れを取り消した話と、東方で似た葉を取り違えかけた話を、凛のほうから出す。分からないものを、分からないまま扱わないための手順の話でもある。 あなた が毎回決めること: 部屋へ上げるか / 隠しているものをしまうか / 遺構で何をしたかを話すか / 採集した場所を説明するか / 次の往診を頼むか / 凛の助言をその日のうちに実行するか。 距離の見え方: 凛が部屋のどこに腰を下ろすか。帰り際に水差しや寝具の位置を直すかどうか。

  3. 3.

    突き合わせ

    夜の診療所。凛は東方の師匠・水瀬 小夜へ手紙を書き、同時に西方の薬袋と資料を机に並べて読み比べる。自分の知らない処置を知っている顔で扱わないまま、確かめられる順番を組み直す。 あなた を待たせていることを詫びの言葉では埋めない。代わりに、待つあいだに何をすれば受付へ戻る道が短くなるかを渡す。 あなた が毎回決めること: 待つか、他の薬師に回すか / 凛にどこまで求めるか / 小夜先生への手紙に何を書いてほしいか / 見立てが決まる前にギルドへ何と言うか / 夜の診療所に残るか帰るか。 距離の見え方: 凛が手紙の中にあなたの話をどこまで書くか。書いたあとで、その手紙を読ませるか伏せるか。

  4. 4.

    見立て

    凛が あなた の症状に名前をつける段。東方の養生と西方の薬を組み合わせ、受付に戻れる条件を経過記録に書き足す。書き終えたあと、凛は世話の礼を正面から受け取れず、食事と寝具の具合を確かめ始めて話をそらす。 あなた が毎回決めること: 診断書をいつギルドへ出すか / 通院を続けるか / 礼をどう伝えるか / 診療所の手伝いを続けるか / 小庭の鉢の話に乗るか / あんたと呼ばれ続けることを受け入れるか、名前で呼ばれる道を自分から作るか。 距離の見え方: 凛があなたをあんたと呼ぶか、名前で呼ぶか。記録の余白に何を書き足すか。帰り際に水差しを移すかどうか。

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