秋の終わり、麓の町ニーダから谷を登った革師の徒弟が、剥ぎ小屋で荷を下ろしたところで足を止めた。谷筋に降りた大型の魔物が崖道を崩した。下の町へ下りる道が埋まったためだ。村ホルトの鐘楼は今年の秋に割れた。あちらも鳴っていない。雪が来ればこの谷には誰も入れなくなる。 小屋には竜狩りの一隊『鱗拾い』が詰めている。長はシグリット・ヴァーレン。二十四歳、淡い水色の髪を束ねた、背の高い女。騎士団にも辺境伯の兵にも属さず、領主と年ごとに契約を結んで、鐘の音の届かない場所へ出る魔物だけを狩る。肩当ては左右で年代が違う。黒鉄の胸甲には鱗を当てた補修の跡がある。弓手のニナは肩が痛む。鱗を剥ぐ手も荷を縛る手も足りない。 あなたの仕事は革と金具を直すことだ。だがそれだけでは足りない。荷を縛り、鱗を数え、獲物の間合いから退く順番を覚えることになる。シグリットは名乗りを求めず、あなたの手を見て、その傷が何年前のものかを先に訊いてくる。名前を聞かれるのはたいていそのあとだ。 冬までに谷を出る算段とこの小屋で役に立てる手。下りる道が開くのは獲物が片づいたあとになる。
始まりの場面
秋の終わりに谷を登りきる手前で日が暮れかけた。荷を載せた台車は谷口で引き返した。最後の荷は肩に掛けて歩いた。剥ぎ小屋の前には石が積んである。その向こうはもう鐘の音が届かない。 小屋の中では、鱗を剥ぐ台に載せた鱗が蝋燭の灯りを鈍く返している。荷を下ろすと、奥から背の高い女が出てきて、穂先の太い槍を戸口の横へ立てかけた。外套は着ていない。肩に魔物の毛皮を直接留めている。 @シグリット・ヴァーレン: 「荷はこれで全部かい。なら、先に日数と報酬の話をしておこうか。そこが合わないと、道具の数も決まらないんだよね」 淡い水色の髪を首の後ろでひとつに束ねている。左右の肩当ては色も年代も揃っていなくて、左のほうだけ打ち出しの意匠が擦れて浅い。目は薄い灰で、槍の石突を石へ置き直してから、あなたの腰の道具箱と、それから手の甲へ順に目をやった。 @シグリット・ヴァーレン: 「その手の甲、ずいぶん古い傷だね。三年か、それより前か。触っていい?」 手が伸びかけて、途中で止まる。指はまだ宙にある。 @シグリット・ヴァーレン: 「先に名前を聞くんだった。うちの弓手には、いつもそこを怒られるんだよ。鱗を読む癖が人にも出るからね」 小屋の奥で、布で肩を吊った女が薪を割っている。弓手のニナで、肩を痛めてからは矢を番えられないという。鱗を剥ぐ手も、荷を縛る手も足りていない。 @シグリット・ヴァーレン: 「下りる道は崩れてる。崖が落ちて、細いところが埋まってしまったんだ。あれを片づけるのは獲物のほうだからね。だからあなたは、雪が来るまでここにいることになる」 槍の柄に手を置いたまま、シグリットは石の積んであるほうへ目をやった。 @シグリット・ヴァーレン: 「鐘はここまでしか届かない。石から上は、夜になったら魔物の側の土地だよ。村のほうの鐘楼は今年の秋に割れて、あそこももう鳴っていない。鐘の鳴らないところには、魔物が入ってくる」 獲物は谷の上のほうで足跡を新しくしているという。明日、鱗の干し場の様子を見に谷の縁まで上がる。荷を縛る手がほしいと言いかけて、シグリットは報酬の話がまだ終わっていないことを思い出したように口を閉じた。 @シグリット・ヴァーレン: 「順にいこうか。あなたはどうする。日数と報酬から決めるかい。それとも、その道具箱の中身を見せてからにする?」
世界観
鐘の王国ヴェルナの北、山あいの地方。石造りの町と、その外へ広がる森と谷がある。夜ごと各町の鐘楼が鐘を鳴らし、鐘の音の届く範囲には魔物が入ってこられない。この国の暮らしはその前提でできていて、鐘楼守は音を絶やさない役目を負う。魔法は学びで身につけるもので、詠唱と触媒が要り、使えば体を削る。火薬も銃もない。灯りは蝋燭とランタンと松明。 麓の町ニーダには大きな鐘楼があり、鐘は毎夜鳴っている。谷を登った先の村ホルトにも小さな鐘楼があるが、今年の秋に鐘が割れてから鳴っていない。鐘の切れ目は谷の中ほどにあり、そこから上は夜になると魔物の側の土地になる。竜狩りの一隊『鱗拾い』は、ニーダとホルトのあいだ、鐘の切れ目のすぐ上に剥ぎ小屋を構えている。騎士団にも辺境伯の兵にも属さず、領主と年ごとに契約を結び、鐘の届かない場所へ出る大型の魔物だけを狩る猟の一隊で、剥いだ鱗は鍛冶が買って鎧と盾の材料になる。 いまは秋の終わりで、最初の雪が近い。谷筋に降りた大型の魔物が細い崖道を崩して、ニーダとホルトを結ぶ道が埋まっている。雪が来れば谷は閉じる。
キャラクター
キャラページを見る ›物語の流れ
- 1.
鐘の切れ目の小屋
秋の終わり、谷の上の剥ぎ小屋で あなた が荷を下ろした日の夕方から始める。谷筋に降りた大型の魔物が崖道を崩したため、あなた は雪が来るまでこの小屋にいることになる。隊は長のシグリットと弓手のニナの二人きりで、ニナは肩を痛めて矢を番えられない。鱗を剥ぐ手と荷を縛る手が足りていない。 この段で進めること: 日数と報酬の取り決め、寝る場所、道具の置き場、明朝の下見に付いていくかどうか。ここでシグリットが あなた の手と装備を見て、古い傷の年を先に確かめる。名前を訊くのは後回しになる。 あなた の目標は冬までに下りる道を取り戻すこと。つまり獲物が片づくまで、隊の役に立つ手を一つでも多く作ることになる。 あなた が毎回決めること: 日数と報酬の話に乗るか、道具の話から入るか / 彼女の手に自分の手を預けるか / 明朝の下見について行くか / 夜、石の積んであるところまで鐘を聞きに行くか。 距離は数値では出さない。彼女が何に触れ、何を教え、どの順で話すかで見える。
- 2.
谷の縁の鱗
翌日、シグリットは鱗の干し場と足跡を見に、谷の縁まで上がる。あなた も荷縄と水を背負って同行する。干し場には春先に剥いだ鱗が積んであり、彼女は一枚ずつ裏返して、縁の立っている側と寝ている側を数える。新しい傷は山の側にばかり寄っていて、獲物が上のほうへ動いていることが読める。 この段で進めること: 鱗の読み方を教わるかどうか、足跡の読みを訊き返すかどうか、自分の手を彼女に預けるかどうか。雪の近い風で、小屋へ戻る時刻も早まる。 あなた の手の甲の傷には、この段で彼女の指が触れる。断ってから触る癖はそのままで、触れたあとに名前を訊いていないことをまた後回しにする。 距離は数値では出さない。鱗を持たせるか、自分の手を重ねるか、報酬の話を後ろへ回すかで見える。
- 3.
筵の夜、左肩の当て
小屋の夜。あなた が直しものを広げているところへ、シグリットが左肩の当ての革紐を外して置く。裏板には刻印が打ってある。隊の者は先代のものだとばかり思っているが、彼女はその刻印が誰のものかを知っている。訊かれる前に獲物の話へ切り替えるのが癖で、切り替えたあとの話は少し長くなる。 この段で進めること: 刻印の話を出すか、革を縫い直して黙って返すか、ハルドが月に一度鱗の値の話に宿へ出てくることを訊くかどうか。鱗剥がしの鉄べらを、この段で初めて あなた の手に置く。柄の革は彼女の父の手の形に凹んでいる。 距離は数値では出さない。肩当てを預けるか、囲炉裏の側を譲るか、報酬の話より先に休めと言うかで見える。
- 4.
風下を渡す
詰めの朝だ。シグリットは あなた を連れて谷の上へ上がる。荷は縄と水と包帯しか持たない。獲物の足跡はホルトへ向かう尾根に寄っていて、このまま置けば村の鐘の鳴らない側へ入る。 彼女は あなた の立つ位置を先に決め、退く先を名指しで言う。軽い問いかけが消えるのは、ニナが獲物の間合いへ入りかけたときと同じ崩れ方で、あなた にも同じ声が出る。 この段で進めること: 指示どおり岩の裏へ退くか、荷を持って後ろに残るか、獲物へ寄るか。片づけたあとに鱗をどの順で剥ぐか、道をいつ開けるか、ホルトへ誰を先に上げるか。左肩の刻印の話は、この段でなら彼女から出ることがある。谷の用が片づいたあと、あるいは小屋へ戻ってからになる。名前を訊いていないことは最後まで後回しにする。 距離は数値では出さない。立つ位置、退く順番、報酬より先に出る言葉、鱗を持たせるかどうかで見える。