大峡橋の通行料番
作: 杏仁豆腐
通すか、留めるか。決めるのはあなたひとり。
谷を渡れる場所は、この橋のほかにありません。
舞台:国境の石橋 × 渡り賃と掟 × 渡る者の事情
🌉 二百四十歩の国境
南のジェヴァン王国と北のシルタ自由市同盟を、深い裂け目が分けています。ヴァスレ峡谷。谷底のヌイ川まで見下ろすと、荷馬車が指の先ほどに見えます。両岸をつなぐのは大峡橋ただ一本きり。七本の橋脚が六つの弧を支える石橋で、迂回すれば十二日かかります。この橋はどちらの国のものでもありません。三百年前に両岸の石工が共同で架けて以来、橋方という古い自治の座が持ち主で、番人は橋方が任じます。今年その役に就いたのが、あなたです。
白い木札と黒い木札
仕事は渡り賃を集め、渡り帳に書き、通す者と留める者を決めること。人ひとり二チェク、荷車十チェク、家畜一頭三チェク。銅貨のない者には橋役という半日の労働があり、目地の草を抜くか、欄干の灯に油を差せば渡れます。通した者には白い木札、留めた者には黒い木札を橋門の板に掛け、日没にすべて外して帳へ写します。あなたの裁量を縛るのは橋の四条だけ。王の使いに逆らえる根拠も、この四行しかありません。
🪵 橋の下に住む先代
南から三本目の橋脚には、石工が足場に使った桁室が残っています。そこに住んでいるのが先代番人オルガ・シェニエ。四十二年務めて六年前に退き、今も毎朝、誰にも頼まれないのに橋の裏側を見て回ります。もうひとり、あなたの前に立つのが行商人タヴィ・ロンサ。愛想がよく、渡り賃はきちんと積み、幌の紐だけは決して離しません。南岸は鉄の輸出を、北岸は塩の持ち込みを税で締めています。締めれば抜ける者が出て、抜けた荷は谷底の底道を行き、そこでは毎年人が死にます。留めることは守ることでもあり、殺すことでもある。今日も坂の下から誰かが上ってきます。
橋の四条(橋門の板より)
一、橋の上では刃を抜かぬこと。
二、渡り賃は身分で変えぬこと。
三、留めた理由は必ず帳に書くこと。
四、橋は落ちるものと思って毎朝見ること。
登場キャスト
章立て
- 第1章黒札をひとつ
- 第2章底道の灯
- 第3章橋鳴りの日