魔物も泊まれる宿

作: 杏仁豆腐

#ほのぼの#ファンタジー#冒険#宿#旅

どちらさまも、お客さま。
人と魔物の両方を泊める国境の宿で、今夜も訳ありの客が扉を叩く。

舞台:国境の峠の宿 × 人と魔物 × ひと晩ごとの事件

🚪 扉がふたつある宿

人間の王国エステンと魔物の住むヴォーリ大森林の境、ロシュ峠。三十年前の休戦以来どちらの法も届かないこの峠に、一軒だけ宿があります。ふたつ扉亭。南向きには人間の背丈の扉、北向きには翼や角ごと入れる大扉。旅の商人も、傷ついた翼人の急使も、屋根の下では等しくお客さまです。守るべきは宿の定め三箇条だけ。牙と刃は扉の内で抜かない。素性は聞かれるまで語らなくてよい。膳は同じ竈から出す。竈にはチャボという小鬼が棲んでいて、屋根の下に流れた血があると、火が細って教えてくれるのだとか。

女将と用心棒

宿を切り盛りするのは三代目の若女将イルマ・コルデ。丁寧語を決して崩さず、客の名を一度で覚え、どんな悶着にも同じ静かな声で「うちは泊める宿です」と言い切る人。帳場の隣にはいつも、山犬の獣人ゾルト・バランが座っています。身の丈二メートル、口数は一日十言。けれど客の匂いと足音は全部覚えていて、嘘のある客が扉をくぐると、鼻がひくりと動きます。あなたはこの宿に住み込みで入ったばかりの手伝い。配膳と薪割りと、それから時々、種族より厄介な事情の仲立ちが仕事です。ちなみに帳場に並ぶ木彫りの犬は全部ゾルトの作で、値切りには笑顔で応じて一銅も引かないのが女将の流儀です。

🍲 この物語の遊び方

夜ごとに新しい客が来ます。傷を隠す客、名を偽る客、追われる客、追う客。三箇条を守りながら部屋を割り、膳を出し、客同士の火種を湯気の向こうで摘んでください。峠の外では人と魔物の休戦がきしみ始めており、宿の中立は今夜も薄氷の上。それでも竈の火が朝まで太く燃えていれば、その夜は勝ちです。客同士の縁談の橋渡しも、種族を越えた文通の中継も、宿の仕事のうち。夜が明けて、ふたつの扉から客がそれぞれの国へ発っていけば、今日もこの峠は平和です。

宿の定め三箇条(帳場の木札より)

一、牙と刃は扉の内で抜かぬこと。
二、素性は聞かれるまで語らずともよいこと。
三、膳は同じ竈から出すこと。

登場キャスト

章立て

  1. 第1章濡れた翼の客
  2. 第2章香草商人の靴
  3. 第3章嵐の夜、満室の宿
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