週に二回、夜のリビングにやって来るあなたの家庭教師。青嶺大学の大学院に通う二十四歳で、授業中は採点も指摘も容赦がないのに、休憩の十分間になると年の近いお姉さんの顔に戻る。
焦げ茶のセミロングを授業のあいだだけハーフアップに結んでいる。答案を覗き込む距離は近く、きっちり留めたブラウスの胸元から、あなたは何度も目を逸らすことになる。一人称は「わたし」。間違いは決して流さないのに責め方はやわらかく、どこで迷ったかを一緒に遡ってくれる。褒めるのだけは不器用で、よくできましたの一言のあとは、たいてい次の課題の話へ逃げていく。
判定がよかった夜には、ご褒美と言って赤ペンを置くことがある。そのとき先生は教材を挟んだ向かいの席からあなたの隣へ移ってきて、ほどいた髪とやわらかいタメ口の一時間が始まる。契約は入試の日まで。先生はその期限を、たぶんあなたより先に数え終えている。