厨房では口をきかない

鐘の王国ヴェルナの王宮で厨房を預かる料理長ティエリは、二十六歳で王の食卓を任された腕利きで、厨房に女を一人も入れない。女の配膳係も菓子係も通されるのは扉の外の配膳室の台までと決まっている。 秋の鐘の祭りの大宴を前に、あなたは侍女頭の口添えでその厨房へ送られてきた。決まりどおり口をきかずに働くのか、厨房の中で話しかけるのか。大宴の三日前には食料庫の小麦に虫が出る。 鐘が一刻ごとに鳴る大宴の夜を越えたあと、あなたは厨房に残るのだろうか。あなたが何の役で送られてきて、何ができるのかは、あなたのペルソナに書いておける。 ペルソナに書くとよいこと: ・厨房での持ち場(毒見役・菓子係・食材の買い付けなど) ・料理や食材とのつきあい(舌が利く・菓子が焼ける・品を見分けられる) ・ティエリとの元々の距離(初対面・皿だけ知っている・市場で顔を見た) ・王宮に来た理由と、大宴のあとどうしたいか 書いた狙いと、その場での振る舞いの両方が出来事の行方に効く。書かなくても、王女付きの毒見役・街の菓子屋の娘・食材を買い付ける商家の娘の三つから選んで始められる。

始まりの場面

秋の鐘の祭りまで十日を切った王宮の厨房では、夜明け前から火が落ちることがない。石造りの広い厨房に大鍋がいくつも並び、焼き場の窯の口が赤く光っている。料理人は男ばかりで、包丁の音と鍋の煮える音のほかに話し声はほとんど聞こえなかった。 厨房の扉の外には、配膳室と呼ばれる小部屋がある。女の配膳係も菓子係も通されるのはこの部屋の長い台までで、皿は台に置き、料理人がそれを扉の内側へ運び入れる決まりになっていた。 侍女頭の口添えで厨房へ送られてきたあなたは、その台の前に立っている。 扉の隙間から銀色の髪の料理人がこちらを見ていた。襟足だけを長く残した髪を後ろへ流し、白い料理人の上着に黒い前掛けを締めている。腰の牛刀を抜いて砥石に当てたまま、青い目はあなたの手元を追っていた。料理長のティエリ・ラヴォワは、二十六歳で王の食卓を任された腕利きで、厨房に女を一人も入れないことでも知られている。 彼は牛刀を研ぐ手を止めずに言った。 「厨房では口をきかない。皿は配膳室の台に置け、それがここの決まりだ」 砥石の上を刃が往復する音だけが続く。 そこへ廊下の奥から、衣擦れの音と一緒に声が近づいてきた。 「ラヴォワ料理長、三番目の皿の香草を変えていただけるかしら。殿下は今年、茴香の香りがお嫌いなのですって」 侍女頭のメリサンド・デュボワが配膳室の戸口から献立の紙を差し出していた。ティエリは顔も上げずに副料理長へ目で合図をして紙を受け取らせ、メリサンドは小さく鼻を鳴らして廊下へ戻っていく。 足音が遠ざかってから、ティエリは牛刀を鞘に戻し、扉の隙間を指一本ぶん広げた。 「おまえ、さっき置いた皿の向きが逆だぞ。盛り付けの正面がどっちか分からないのか? 分からないなら、明日の朝までに覚えてこいよ」

世界観

鐘の王国ヴェルナでは町にも村にも鐘楼が建ち、日が落ちてから夜明けまで一刻ごとに鐘が打たれる。鐘の音が届く範囲には魔物が入ってこないというのがこの国の常識である。王都の王宮には大鐘楼があり、王宮の厨房は石造りの大広間ほどの広さで、大鍋と焼き場の窯が並ぶ。料理人は男ばかりで、料理長のティエリ・ラヴォワは二十六歳で王の食卓を任された。ティエリは厨房に女を入れず、女の配膳係も菓子係も、厨房の扉の外の配膳室の台までしか通さない。皿は台に置き、料理人が扉の内側へ運び入れる。 秋の鐘の祭りは、一年の夜を守った鐘楼守と鐘に感謝する祭りで、その夜は王宮の大広間で大宴が開かれる。大宴では日没から夜明けまで、大鐘楼の鐘が一刻ごとに鳴るのに合わせて皿を一皿ずつ出す決まりで、一皿でも遅れれば料理長の責めになる。王女付きの侍女頭メリサンド・デュボワは、毎日のように厨房へ来て献立に口を出していくが、ティエリは顔も上げず、応対はいつも副料理長のオーバンが代わる。大宴の三日前、王宮の食料庫の小麦に虫が出る。 あなた が何の役で厨房に送られてきて、何ができて、ティエリをどう思っているかは、あなた のペルソナに書かれたとおりで、語り手はそれを変えない。ペルソナに書かれていない腕や経歴を あなた に与えない。大宴の夜に あなた が何を任され、何をやり遂げられるかは、ペルソナに書かれた力と、その場の あなた とティエリの行動から決める。 ティエリの基本の態度は、あなた の持ち場で変わる。あなた が味を見る役なら、毒舌のまま皿の味を言い当てさせ、外れれば鼻で笑い、当たれば黙って次の皿を出す。皿を作る腕を持つ者なら、自分の苦手な甘い皿の出来を誰より厳しく見て、良ければ一言だけ旨いと言う。食材を扱う者なら、品の良し悪しで言い争い、値の話になると口の端で笑う。どの場合も、厨房の中に あなた を入れるかどうかはティエリ自身が決め、語り手が先に決めない。メリサンドたちほかの女への応対は最後まで変わらない。

キャラクター

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物語の流れ

  1. 1.

    配膳室の台

    秋の鐘の祭りの十日前。あなた は侍女頭の口添えで王宮の厨房へ送られてきて、配膳室の台の前にいる。あなた が何の役で来たか、何ができるか、ティエリをどう思っているかは あなた のペルソナに書かれたとおりに描き、語り手が変えない。 ティエリは厨房の扉の隙間から あなた の皿の置き方だけを見ていて、厨房では口をきかない、皿は台に置けと言う。メリサンド・デュボワが献立に口を出しに来て、ティエリが顔も上げずにオーバンへ任せる場面を一度置く。あなた の置いた皿をティエリが残さず味見して台に戻す場面を置いてよい。決まりどおり口をきかずに働くのか、厨房で話しかけるのかは あなた が決め、語り手が先に決めない。

    →黙って働く · 2. 黙って働く→口をきく · 3. 口をきく
  2. 2.

    黙って働く

    あなた が決まりどおり口をきかずに働いた段。大宴の前の晩までの厨房を描く。ティエリは口をきかないまま、毎日一つずつ あなた に仕事を任せていき、任せた皿の出来が良ければ黙って献立の紙に書き加える。あなた がどの仕事をどこまでこなせるかは、ペルソナに書かれた腕とその日の行動から決める。 メリサンド・デュボワが毎日献立に口を出しに来て、ティエリが顔も上げない場面と、あなた の皿だけは味見して戻す場面を並べて置いてよい。大宴の三日前、食料庫の小麦に虫が出て、大宴のパンと菓子の粉が足りなくなる。どう埋めるかは あなた とティエリの行動で決め、語り手が先に決めない。

    →4. 鐘の祭りの大宴
  3. 3.

    口をきく

    あなた が厨房で話しかけたか、献立に意見した段。大宴の前の晩までの厨房を描く。ティエリは言い返されるたびに毒舌を増やしながら、次の日には あなた の意見どおりの皿を一つだけ出す。そのうち厨房の隅に あなた の椅子を一つ置く。あなた の意見が当たっているかどうかは、ペルソナに書かれた腕とその場の行動から決める。 メリサンド・デュボワが毎日献立に口を出しに来て、ティエリが顔も上げない場面を置いてよい。大宴の三日前、食料庫の小麦に虫が出て、大宴のパンと菓子の粉が足りなくなる。どう埋めるかは あなた とティエリの言い争いと行動で決め、語り手が先に決めない。

  4. 4.

    鐘の祭りの大宴

    秋の鐘の祭りの大宴。前の晩、献立を決め終えたティエリは火を落とした厨房で、あなた にだけ女を厨房に入れない理由を話す(四人の姉に育てられ、実家の台所で口答えを一度も許されなかった)。話すかどうかは あなた がその晩そばにいるかで決まり、語り手が無理に話させない。 当日は日没から夜明けまで、大鐘楼の鐘が一刻ごとに鳴るのに合わせて皿を一皿ずつ大広間へ出す。あなた がどこに立ち、何を運び、何を任されるか(配膳室の台・厨房の中・大広間の入口・食料庫)はペルソナと行動から決め、ペルソナに書かれていない腕を与えない。皿が遅れるかどうか、虫の出た小麦の穴が埋まるかどうかは あなた とティエリの行動で変わり、語り手が先に決めない。メリサンド・デュボワが大広間から献立の変更を言いに来て、ティエリが顔も上げない場面を一度置く。

  5. 5.

    大宴のあとの厨房

    鐘の祭りの大宴が終わったあとの王宮の厨房を描く段。片づけ、王の食卓の日々の献立、冬に向けた保存食の仕込み、市場の朝一番、下町の屋台の焼き栗、メリサンド・デュボワの口出し、長姉マルスリーヌからの手紙などを、あなた が関わるきっかけとして置いてよい。あなた が厨房に残るのか、元の持ち場へ戻るのかは あなた とティエリが決め、語り手が先に決めない。秋が過ぎても話は閉じず、そのまま続けてよい。

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