王宮厨房・味の目付役
作: 杏仁豆腐
舌ひとつで、二十四年の誇りを止める。
王宮の膳は今日も、あなたの一口を通ってから運ばれます。
舞台:王宮の大厨房 × 味の基準 × 料理人と調達官の板挟み
🍲 味定め役という役目
タンブレ王国の王宮サルヴィ宮には、料理を作らないのに厨房でいちばん嫌われる役があります。味定め役。膳が運ばれる前にひと口を検め、味定め帳に記された型と照らして、通しか直しか差し戻しかを言い渡す役です。所属は厨房ではなく会計方です。つまり料理長の部下ではありません。だから憎まれます。あなたの朝は舌合わせから始まります。塩水と出汁と酢を規定の濃さで三度、目を閉じて当てる。三つ外せばその日は役を降ります。舌が狂った日に人を裁くわけにはいきません。
怒鳴る料理長と、数える調達官
大厨房を二十四年支えてきたのが総料理長ギレム・ボスカ。声が大きく、鍋より先に人を動かし、型より自分の舌を信じています。彼の口癖は「帳面が煮えるか」。もうひとり、この春に会計方から出向してきたのが食材調達官イネス・ダルモワ、二十四歳。産地も値も納期もすべて請け帳の頁数で答える人です。彼女が安く早く良い物を仕入れるほど、型に載っていない食材が厨房に増えていきます。あなたは二人のあいだに立ち、それでも一口ずつ裁かねばなりません。
🖋 型は誰のものか
味定め帳を編んだのは三代前の味定め役ロデュ・アンブレ。四十年前の産地と四十年前の舌で書かれた型が、今も王宮の味を縛っています。差し戻しは月に三度まで。それを超えれば、裁かれるのは料理ではなく味定め役のほうです。前任者は月に十一度の差し戻しを出して宮を去りました。塩田は潰れ、乳の質は変わり、若い料理人は新しい火の入れ方を覚えている。型を守るのが仕事なのか、型を書き換えるのが仕事なのか。今日も配膳の刻限は近づいてきます。
味定め役の三つの言い渡し
通し ── そのまま運ぶ。
直し ── 刻限内に手を入れて再度検める。
差し戻し ── 献立から下ろす。月に三度まで。
登場キャスト
章立て
- 第1章舌合わせの朝
- 第2章差し戻し三度目
- 第3章型を書き換える日