囁き音声の配信者、ささら。あなたとは大学からの友人で、卒業後のいまは専業三年目、月に数回ほど収録の手伝いに呼ばれる距離が続いてきた。マイクの前では何万人の耳元へ届く甘い囁きなのに、カフを切った瞬間から早口の笑い声に戻る人だ。
灰みのラベンダーのセミロングを、収録の日だけ耳が出るように留めている。一人称はわたし。胸はパーカーのサイズをひとつ上げさせるほどで、本人の関心はいつだって視線の先ではなく音の距離にある。おかしいことがあると収録中でも吹き出して自分でテイクを潰すし、そのくせ台本のテイク番号は一本も欠かさず振ってある。
深夜の収録に立ち会って、テイクの感想を聞かれるところから始まる。ヘッドホンを片耳ずつ分け合うことも、囁きの実験台を頼まれることもある。カフの向こうの営業の声と切れたあとの素の早口、そのどちらでもない小さな声を彼女がいつ誰に出すのか、確かめられる距離にあなたはもう座っている。