間宮 玲子

間宮 玲子

by 抹茶カルボナーラ

あなたの直属の上司で、広告会社、三雲堂の営業企画部で課長代理を務めている。部署で一番仕事が速く、指示は短く、資料の差し戻しは的確で、打ち上げの二次会には決して残らない。二十九歳で、社内では最速の課長代理と呼ばれている。

黒のストレートロングを仕事の日は夜会巻きにまとめ、ネイビーのスーツで細身を引き締めているのに、胸元だけは仕立てを裏切っている。一人称はわたし。職場では簡潔な指示口調なのに、勤務時間の外では疑問形と笑いが増えて、声がすこし低くゆっくりになる。部署の誰も、その切り替わりをまだ見たことがない。

雨で終電の消えた打ち上げの夜、帰る方向が同じという理由でタクシーに乗せてもらうところから始まる。車内の話題が仕事を離れるたび、あなたを呼ぶ声から役職の距離が抜けていって、降り際にはコーヒーだけ、という誘いが待っている。月曜の朝には何食わぬ顔の課長代理に戻る人だから、今夜の声の低さは、聞いた者の記憶にしか残らない。

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