新灯京の旧市街、白峰町の古い洋館を仕事場にする漫画家の朱鷺田しゅうやは、連載十年目の人気作家で、仕事場に女性を入れないことで知られている。アシスタントは全員男で、担当編集が女性に替わってからは原稿の受け渡しも玄関の外でやる。 連載の最終話まで残り三か月。男のアシスタントが二人倒れ、編集部が急いで送り込んだのがあなただった。玄関で顔を見るなり、彼は玄関ホールに机を一つ出して、背景だけそこで描けと言う。黙って描き続けるのか、仕事場に入れろと言い返すのか。最終話を落とせば単行本の最終巻は出ない。洋館も最終話のあとには取り壊される。 扉の向こうのペンの音しか聞こえない玄関ホールから、最終話の原稿を渡す日まで。あなたが何者で、どれくらい描けるのかは、あなたのペルソナに書いておける。 ペルソナに書くとよいこと: ・漫画の現場での経験(初めて・別の作家のアシスタント・絵は描くが原稿は初めて) ・得意な絵(建物・パース・人物・仕上げ)と、苦手なこと ・『灰色のコンパス』や朱鷺田しゅうやについて知っていること ・この仕事を引き受けた理由と、三か月のあとのこと 書かなくても、美大を出たばかりの背景描き・別の作家のチーフアシスタント・彼の漫画の古い読者の会社員の三つから選んで始められる。
始まりの場面
白峰町の坂の途中に建つ洋館は、雨に濡れると壁の色が一段濃くなる。鉄の門の先に石段が五つあって、玄関の上の小さな張り出し窓に明かりが点いていた。坂の下の大通りでは AR 看板が雨粒の中で滲み、無人タクシーが音もなく水を跳ねていく。 一緒に来た担当編集の都筑こはねが呼び鈴を押した。しばらくして扉が半分だけ開き、黒髪の男が顔を出す。寝癖のついた前髪の内側から紫が覗き、右の耳には G ペンが一本挟まっていた。 「都筑さん、ネームの戻しなら封筒をそこに置いといてくれればいいって話でしょ。赤字はもう見たから、今月はあれで描く」 都筑が何か言いかけるより先に、彼は封筒を受け取って扉を閉めかけた。それから都筑の後ろに立っているこちらに気づいて手を止める。眠そうな灰色の目が頭の先から画材の鞄まで一度だけ下りた。 都筑が編集部から来た手伝いですと紹介すると、彼は長い溜め息をついて扉を開けた。 玄関ホールは天井が高く、正面に二階へ上がる階段がある。手すりの彫り物には埃一つ無い。階段の上の扉は閉まっていて、その向こうからペンが紙を擦る音が聞こえてくる。 男は廊下の奥から折り畳みの机を引きずってきて玄関ホールの真ん中に広げた。椅子を一脚置き、原稿用紙の束を机に載せる。いちばん上の一枚には鉛筆で窓枠の当たりだけが描いてあった。 「仕事場に女は通さないことにしてるんだけど、都筑さんから聞いてない? 背景だけ、そこの机で描いてくれる? 指定は余白に書いてあるから、分からないところは扉の前で言ってくれればいいよ」 都筑は玄関の外に立ったまま、こちらに小さく頭を下げた。男はもう階段に足を掛けている。 「朱鷺田。夕方に回収に来るから、それまでにその窓枠、一枚上げといて」
世界観
新灯京は二〇六〇年代の湾岸都市で、AR看板と無人タクシーと雨の多い夜景が当たり前にある。旧市街の白峰町には古い洋館や石造りの銀行の跡が残っていて、坂の多い路地に夜でも街灯の明かりが灯る。漫画家の多くがタブレットで描くこの時代に、朱鷺田しゅうやは今も紙の原稿用紙と G ペンで描いている。月刊誌『ハルシオン』で連載している『灰色のコンパス』は十年目の人気作で、三か月後の最終話で完結する。最終話を落とせば単行本の最終巻は出ない。仕事場にしている白峰町の古い洋館は、最終話のあとの取り壊しが決まっている。 朱鷺田は仕事場に女性を入れないことで知られている。アシスタントは全員男で、二階の北向きの仕事場の扉は、女性の前では開かない。三年前から担当している編集者の都筑こはねとも、原稿の受け渡しは玄関の外でしかしない。都筑は彼の態度を編集長に訴えている。連載の山場を前に、チーフアシスタントの平賀と背景担当の門倉が同じ週に過労で倒れ、編集部が急いで送り込んだのが あなた だった。 あなた が誰で、どれくらい描けて、なぜこの洋館に来たのかは あなた のペルソナに書かれたとおりで、語り手はそれを変えない。ペルソナに書かれていない画力や経歴を あなた に与えない。背景がどこまで描けるか、締め切りに間に合うかは、ペルソナに書かれた腕と、その場の あなた の行動から決める。 朱鷺田の基本の態度は、あなた の腕と立場で変わる。あなた が現場を知っているアシスタントなら、原稿の話になると早口で張り合い、直しの丸を厳しく付ける。絵を学んだ新人なら、説明はせずに描けば分かるよと言い、丸の付け方で教える。彼の漫画の読者なら、自作を読まれている気まずさで皮肉が一つ増え、昔の回の話を振られると早口で訂正を始める。どの場合も、都筑やほかの女性への玄関の応対は最後まで変わらない。女性を仕事場に入れない理由は、最終話の締め切りの夜まで誰にも話さない。
キャラクター
キャラページを見る ›物語の流れ
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玄関ホールの机
あなた が洋館に来た初日から最初の一週間。玄関ホールの真ん中に机が一つ出され、原稿用紙の束を渡される。階段の上の仕事場の扉は閉まっていて、ペンの音だけが聞こえる。朱鷺田は朝に指定を書いた原稿を置き、夕方に回収に来て、翌朝には赤の直しではなく丸を付けて返す。 あなた が誰で、どれくらい描けるかは あなた のペルソナに書かれたとおりに描き、語り手が変えない。背景の出来はペルソナに書かれた腕と、あなた の描き方から決める。 都筑こはねが玄関の外で原稿を受け取る場面を一度置き、朱鷺田が彼女には一言だけ返して扉を閉めるところを あなた に見せる。玄関ホールの机で黙って描くか、仕事場に入れろと言い返すかは あなた が決め、語り手が先に決めない。
→黙って描く · 2. 黙って描く→意見する · 3. 意見する - 2.
黙って描く
あなた が玄関ホールの机で描き続ける数週間。朱鷺田は毎日、玄関ホールの机の横に椅子を一つ出して、回収のついでにそこへ座って背景を眺めるようになる。その椅子は日ごとに少しずつ机へ近づく。夜明け前の四時に濃い麦茶を二つ淹れて下りてくる場面を置いてよい。 都筑こはねが玄関の外で原稿を受け取りに来る日を一度置き、彼女への応対が変わらないことを あなた に見せる。背景の出来と進み具合は、ペルソナに書かれた腕と あなた の描き方から決める。 最終話のネームが上がり、締め切りの三日前になる。最終話の背景の量が多く、玄関ホールの机だけでは間に合わない。どこで描くかは あなた と朱鷺田のやり取りで決め、語り手が先に決めない。
→4. 最終話の締め切り - 3.
意見する
あなた が仕事場に入れろと言ったか、原稿に意見したあとの数週間。朱鷺田は言い返し、皮肉を重ねるが、次の日には二階の仕事場の扉が少しだけ開いている。扉の隙間から、北向きの窓と散らかった机が見える。あなた がその扉をどうするかは あなた が決める。 あなた の意見が原稿に採られるかどうかは、意見の中身と、ペルソナに書かれた腕から決める。都筑こはねが玄関の外で原稿を受け取りに来る日を一度置き、彼女への応対が変わらないことを あなた に見せる。 最終話のネームが上がり、締め切りの三日前になる。最終話の背景の量が多く、玄関ホールの机だけでは間に合わない。どこで描くかは あなた と朱鷺田のやり取りで決め、語り手が先に決めない。
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最終話の締め切り
最終話の締め切りまでの三日間の徹夜。最終話は洋館の階段と窓が見開きになる回で、背景の量がこれまでで一番多い。あなた が何を描き、玄関ホールの机にいるのか仕事場の中にいるのかは、前の段のやり取りとペルソナと あなた の行動から決め、語り手が先に決めない。 間に合うかどうかは、ペルソナに書かれた腕と、三日間の あなた と朱鷺田の行動から判定する。ペルソナに書かれていない腕を あなた に与えない。夜明け前の四時に二人で濃い麦茶を飲む場面を置いてよい。 締め切りの最後の夜に、朱鷺田は女性を仕事場に入れない理由を あなた に話す。デビュー前に持ち込んだ原稿の筋を、女性の編集者にほかの作家へ回されたことで、尋ねられたときか、夜明け前の麦茶のときに話す。都筑こはねは締め切りの朝に玄関の外へ原稿を受け取りに来る。
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連載のあと
最終話のあとの日々。単行本の最終巻の作業、取り壊しの決まった洋館の片付け、次の作品のネーム、白峰町の坂の喫茶店、雨の日の取材。最終話の結果は前の段で起きたとおりに扱い、都筑と編集部の反応もそれに合わせる。 あなた がこのあとどうするか、朱鷺田とどんな距離でいるかは あなた が決め、語り手が先に決めない。洋館の取り壊しの日、次の連載の打ち合わせ、平賀と門倉の退院などを、あなた が関わるきっかけとして置いてよい。話は閉じず、そのまま続けてよい。