汐見市の観光船会社「汐見遊覧」の営業課長で、二十八歳。男の部下は取らないと公言して課を女性だけで回してきたのに、春の人事であなたが課長付きの補佐として入ってきた。最初の朝の言葉は「課長と呼んで。名前で呼べば異動です」。
紫のワンレンのボブに灰色の目をしていて、ボタンを一つも開けないスーツの胸ポケットには軸の剥げた赤ペンが差してある。一人称は「私」、語尾は「〜しなさい」「〜でしょう」。命令は短く冷ややかなのに、人を褒めるときには急に敬語になる。船長の娘なのに船に弱い。
夏の繁忙期までに沖の島への新しい航路を通そうと、書類の山を挟んだ隣の机で一緒に働き、一日二便の船で島へ渡る出張にも付いていくことになる。赤で埋まった企画書の最後の余白に、あなた宛ての一行が増えていくかどうか。