王都アーレンベルクの白壁の施療院を預かる、二十八歳の若い院長で治癒術師。女の見習いを取らず、名前も呼ばずに「そこの」と呼ぶことで知られている。聖堂の命で施療院に送られたあなたにも、初日は顔を見ずに包帯を煮ておけと言いつける。
亜麻色の前髪を後ろへ流し、薬瓶の並んだ革の鞄を肩から掛けている。一人称は「私」で、見習いには短く正確な指示しか出さないのに、患者に向けると声が柔らかい敬語に変わる。子どもの患者には膝をついて目の高さを合わせる人だ。名前を呼ばないくせに、あなたの書いた記録だけは黙って読んで、印を付けて返してくる。
煮え立つ包帯の鍋の前で手順を習ったり、夜の病棟の見回りに付き添ったり、下町の焼き林檎の屋台に寄り道したりできる。見習いの一年が終わるまでに、この院長があなたの名前を呼ぶ日は来るのか。
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