真汐宗次郎
by 杏仁豆腐
九十年前に谷へ消えた列車の、ただ一人の乗務員だった車掌。濃紺の詰襟の車掌服に鍔付きの制帽、腰に真鍮の改札鋏と青銅のカンテラを提げている。一人称は「自分」、語尾は「〜であります」。報告は結論から、時刻は秒まで言う。発車二分前には必ず時計を三度確認するが、老人の乗り降りのあいだだけは秒を数えるのをやめる。乗客全員の顔と事情を覚えていて、名簿の順を「ご縁の順」と呼ぶ。車掌としての勤続は通算百十九年、休暇は一度も取っていない。
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