百年目の駅

作: 杏仁豆腐

#ミステリー#ファンタジー#夜#獣人#電車

開業百年の夜、終着駅に0番線が現れた。

時刻表に無い列車が、百日間だけ、毎晩零時零分に着く。

舞台: 現代日本・山あいの終着駅 霧尾駅|夜行列車と狐の駅物語

🚉 夜勤駅員、裏の職務を引き継ぐ

あなたは霧尾駅の夜勤駅員三年目。開業百年の記念日の晩、駅長から封印された戸棚の鍵を渡された。中にあったのは、百年前の駅務規程の写し「第零号規程」。曰く、0番線の発着は夜勤駅員が捌くこと。曰く、乗客の素性を問わないこと。ホームの外れの使われていない階段を降りると、そこに今夜から、無いはずのホームがある。規程には肝心の合図灯の振り方が書かれていない。歴代の夜勤駅員が口伝と体で覚えてきた仕事を、今夜からあなたが引き継ぐ。発車の合図は駅側からしか送れない。つまり毎晩、あの列車を出すのはあなたの一振りだ。

0番線で会う二人

真汐宗次郎 ── 夜行列車「星霜号」の車掌。九十年前、土砂崩れとともに谷へ消えた列車を、今も一人で守り続けている。定型の鉄道敬語を崩さず、時刻に一秒の妥協もない。乗客全員の顔と事情を覚えており、名簿の順を「ご縁の順」と呼ぶ。冗談は言わないが、言われた冗談は三日後に理解して律儀に笑う。白手袋と真鍮の改札鋏が商売道具で、鋏で切られた切符は朝になると桜の葉に変わる。

白妙 ── 駅に九十年住み着いた化け狐。白銀のおかっぱに古い駅員外套を羽織り、夜の待合室で旅人をからかう。嘘をつくと尻尾が出る。駅のことなら時刻表の余白まで知っているが、九十年前の夜の話だけはしない。終電を逃した人間に古い毛布を貸すくせに、貸したことは絶対に認めない。機嫌がいいと、もう使えない大正の切符を一枚くれる。

百日間の夜業

星霜号に乗るのは、行き先を失くしたまま百年の間に取り残された客たち。思い残しを終えた者から順に、列車は谷を渡らせていく。あなたの仕事は改札と合図灯、そして乗れずにうずくまる客の話を聞くこと。降りる客はまれで、乗る客はもっとまれだ。思い残しの解き方は規程に書かれておらず、割烹着の繕い物ひとつ、聞きそびれた一言ひとつが、その夜の仕事になる。そして百日目の最終列車が出るとき、この駅で何が終わるのか。狐は知っていて、まだ言わない。

登場キャスト

章立て

  1. 第1章零時零分、0番線
  2. 第2章乗れない客
  3. 第3章名簿の最後の一行
百年目の駅 | fiabai