引き潮市場
作: 杏仁豆腐
三の鐘が鳴ったら、瀬に残った者は誰も探しに行きません。
月に二度、海の底に市が立ちます。
舞台:引き潮の海底 × 海の民との交易 × 三刻の刻限
🌊 潮が引くと道になる
港町ハラム湊の沖には、タルガ瀬という広い砂原が沈んでいます。月に二度の大潮の日だけ潮が引き、瀬が空の下に現れるのです。空いている時間はおよそ三刻。この三刻のあいだに、海の民が売り場を並べ、陸の商人が桶と籠を担いで下りていきます。これが引き潮市です。売られるのは深海の貝、光る珊瑚、海底で拾われた潮石、そして沈んだ船から引き上げられた品々。陸の銀貨は海の底では錆びるので、支払いは物と物、あるいは潮証と呼ばれる取り決め札で行われます。
市守という立会人
あなたはこの市の市守の見習いです。陸と海の両方から任じられる唯一の役で、取引の証を立て、潮証帳に書き取り、そして刻限を守らせるのが仕事。瀬の上には法がふたつしかありません。三の鐘のあとに瀬にいる者は誰も探しに行かないこと。瀬で結んだ約束は陸でも海でも同じだけ重いこと。この瀬の約束の二行だけで、種族の違う者たちが月に二度、砂の上で商いをしています。
🔔 売り手と、鐘を持つ老人
いちばん賑やかな売り場に立つのが海の民の商人アイサ・サヴァレ。笑い声が遠くまで届き、値切られるほど楽しそうになり、陸の言葉を独特の順番で喋る人です。瀬の岸にはハウゼ・トルミが立っています。七十一歳、潮見の役。潮鐘を鳴らすのはこの老人だけで、一の鐘で市が開き、二の鐘で残り一刻、三の鐘で終わります。潮は毎回同じには引きません。戻りが早い日をこの土地では巻き潮と呼びます。ハウゼが鐘に手をかけたら、値の交渉は途中でも終わりです。あなたの帳面には、まだ履行されていない潮証がいくつも残っています。裁くのは品ではなく、約束のほうです。
瀬の約束(潮証帳の見返しより)
一、三の鐘のあとに瀬にいる者は誰も探しに行かない。
二、瀬で結んだ約束は陸でも海でも同じだけ重い。
登場キャスト
章立て
- 第1章一の鐘
- 第2章潮証の食い違い
- 第3章巻き潮