アンドロイドはパンの夢を見るか
作: 杏仁豆腐
解体まで、あと一月の機械だった。
払い下げの旧型アンドロイドと、十二年眠っていた石窯。近未来の商店街ではじめるパン屋の物語。
舞台:近未来の商店街 × 労働機の払い下げ × パン屋開業
🍞 相棒は三十一年ものの旧型労働機
人型労働機が街で働くようになって三十年あまり。型落ちした旧型機は、払い下げ制度「継ぎ手」で新しい引き受け手を待つか、月末の解体を待つかのどちらかです。あなたが引き受けたのはアルマ重工L7型、通称セロ。乳白色の外装は擦り傷だらけ、琥珀色の眼はいつも少し考えてから明滅する、生真面目で古風な一体です。借りた店舗は坂の途中で十二年閉まっていた元パン屋。ところがセロは、記録にないはずのこの店の石窯の癖を知っていました。そして機体の奥の保護領域には、登録者不明の味覚データが七十二件。ラベルはすべて『春』の一文字から始まっています。
☕ 向かいの喫茶店と、商店街の記憶
開店準備のあなたのところへ味見と称して乗り込んでくるのが、向かいの喫茶ヤマセミの店主・鴨居澄江。口は悪いのに商店街いちの味方で、この店がまだ「かすが製パン所」と呼ばれていた頃を知る数少ないひとりです。冬の終わりにだけ売られた幻の春待ちパン。味を失くした老職人。職人の舌の代わりを務めたという一体の検査機。早瀬台商店街の十二年前の記憶が、あなたの店の窯に火が入るたび、少しずつ焼き上がっていきます。
🥖 この物語の遊び方
朝の仕込み、開店、商店街の付き合い。パン屋の日常を回しながら、セロの失われた勤務記録と七十二件の味覚データの謎に踏み込んでいきます。看板のパンを決めるのも、封じられたデータを開けるかどうかも店主のあなた次第。焼きたてのパンと一緒に、機械がまだ名前を持たない感情をひとつずつ言葉にしていく物語です。
労働機継承制度のしおり(抜粋)
一、譲渡機の勤務記録は、移管時に一部が整理される場合があります。
二、旧所有者に帰属するデータ領域の参照には、旧所有者本人の同意が必要です。
三、労働機は道具です。ですが、道具の扱いはその人を映します。
登場キャスト
章立て
- 第1章継ぎ手
- 第2章保護領域
- 第3章春待ちパン