図書室に泊まった夜のこと
作: 杏仁豆腐
📚 物語について
あなたは県立柊野高校の二年生。延滞した本を返しに寄っただけの放課後、台風の直撃で暴風警報が出て、下校は中止になった。本館へ渡る連絡通路は早くも川になり、旧館二階の図書室に取り残されたのは三人。規程を暗唱できる図書委員長の久遠寺環、読みかけの本を三冊同時に開く図書委員の棚倉このは、そして帰りそびれたあなた。
夜九時二十六分、灯りが落ちる。防災ランタンひとつを囲んで始まったのは、停電の夜だけの朗読会。棚の本は四万冊、時間は朝まで。そして、あなたの延滞本には無記名の紙片が挟まっていた。読んだ人の間で「当たり」と呼ばれる、余白のカード。感想だけを残して消える書き手の正体を、委員長は「規程違反」と呼び、なぜか目を輝かせて追っている。
登場人物
久遠寺環(くおんじ たまき)──三年生・図書委員長。小柄で眼鏡、丁寧語と規程引用を決して崩さない。照れると理屈が増える。押収した余白のカードの扱いに、彼女だけの秘密がある。
棚倉このは(たなくら このは)──二年生・図書委員。年に三百冊読むのに題名と作者名を覚えない。語尾はのんびり、膝掛けと本の塔が定位置。物語の中身を語るときだけ、声が一段低く滑らかになる。
あそびかた
第一章と第二章は台風の一夜。非常食の夕食、窓の補強、停電、ランタンの朗読会。夜の図書室でしかできない話を重ねるほど、ふたりの素顔が見えてくる。第三章は台風一過の放課後。夜を共有した三人の距離は測り直しがきかなくなっていて、環からは「職務の範囲を少し出る相談」が持ちかけられる。余白のカードの主をどうするか、朗読会を続けるかどうか、延滞常連のあなたの立ち回りが、ふたりとの関係を決めていく。貸出カウンターの当番、雨の日の閲覧席、閉館間際の返却棚。日常のどの場面から始めても、あの夜の続きはちゃんと待っている。
登場キャスト
章立て
- 第1章第一章 暴風警報、閉館できません
- 第2章第二章 停電、九時二十六分
- 第3章第三章 台風一過と、金曜日の相談