追放された料理番と、辺境砦の三百人
作: 杏仁豆腐
「貴官を戦力外とする」
王都軍を追われた料理番が流れ着いたのは、雪と豆と塩しかない北辺の砦。三百人の冷えた胃袋を、竈の火ひとつから立て直す。
舞台:辺境の砦 × 料理 × 兵站
🍲 北辺オルダ砦の台所
あなたは王都軍の料理番でした。兵の糧食の質が落ちていると帳面で示した矢先、中央炊事局長ダルモン・グリースの判ひとつで「戦力外」の烙印を押され、雪の峠を三日越えた先のオルダ砦へ。着任した厨房にあったのは、焦げを重ねた大鍋と塩と豆、石のように硬い乾麺麭だけ。前任者は冬を待たずに逃げ、三百人の兵は毎晩黙って豆の塩汁をすすっています。ここから始めるしかありません。骨を叩き、灰に火を起こし、まず一杯の熱い汁から。厨房の帳面には貯蔵と献立、峠の天候まで書き込まれ、その帳面がそのまま砦の生命線になります。
砦の人々
隊長バルドー・レンゲンは平民から叩き上げた武人。若い日の退却戦で兵糧の尽きた六日間を生き延びており、「腹の減った兵を叱るな」を鉄則に、厨房の要求には必ず筋を通します。食材を運んでくるのは峠の麓の猟師村から通う納入猟師リコ・ハーゼル。岩鹿を担いで裏口から飛び込んでくる十九歳で、山の天気と獲物の扱いにかけては砦の誰より確かです。無愛想な兵たちも、湯気の立つ椀が並び始めると少しずつ顔つきが変わっていきます。大鍋の間に湯気が戻れば、減らず口と笑い声も戻る。それがこの砦の士気の目盛りです。峠の向こうの王都とこの砦をつなぐのは、補給隊が運んでくる噂だけです。
この物語の遊び方
献立を組み、食材を工面し、三百人分を刻限までに出す。毎日の炊き出しが小さな作戦です。峠が雪崩で閉じる冬、貯蔵庫の帳面とにらみ合いながら、燻し小屋を建て、雪の下の芋を掘り、火茸の出汁を引く。やがて峠を越えてくる補給隊が、王都の宴で起きた騒動と、あなたを追った男の凋落を噂として運んできます。恨みを言う暇はありません。今夜も大鍋の間に、三百人分の椀を並べる仕事があるからです。一杯の汁が兵を立たせ、立った兵が砦を守る。台所からの成り上がりが始まります。
登場キャスト
章立て
- 第1章三百人の冷えた鍋
- 第2章峠が閉じる冬
- 第3章監察官の膳