野良ゴーレム保護工房
作: 杏仁豆腐
主のいない泥人形に、次の仕事を探す十四日間。
砕かれる前に引き取って、直して、働き口を見つけます。
舞台:運河の街の裏通り × ゴーレムの直しと口入れ × 期限との競争
⚙ 野良直しの看板
運河の街カルヴィナ、鋳掛け坂の途中に、泥のにおいのする工房があります。トゥーレ工房。看板には「野良直し」の四文字だけ。ここは主を失って街をさまようゴーレムを引き取り、割れた体を継ぎ、次の働き口を探して送り出す場所です。市の無主令によれば、主のいないゴーレムは十四日以内に新しい主を立てなければ砕かれます。水路管理局の取締官は期限の朝きっかりに書類を持って来ます。工房主のサシャ・トゥーレは四十一歳、口が悪く、笑い声が大きく、人には砕けた口をきくくせにゴーレムにだけは丁寧語で話しかける人です。
癖は消えない
ゴーレムの胸には銘溝という溝があり、そこへ主の名と命令を刻んだ銘札を差して動かします。主が死に、札が欠けると、ゴーレムは最後の命令の断片を繰り返しながら歩き続けます。雨が降ると荷を軒下へ寄せる。夜明けに扉を三度叩く。決まった時刻に、誰もいない西の方角を向く。工房ではこれを癖残りと呼びます。癖は削れません。だからこの工房は癖を消そうとせず、その癖が役に立つ仕事先のほうを探します。
🕯 ムトという名の六番
今いちばん厄介な預かりが、銘札の名の部分が欠けて「六番」としか読めないゴーレムです。サシャは無登録の略でムトと呼びました。ムトは五十ほどの言葉を話します。前の主が三年間、毎晩話しかけていたからです。そして日が暮れると、必ず誰かを家まで送ろうとします。あなたはこの春に雇われた直し手。銘溝の掃除、泥の継ぎ、口入れ帳の書き込みが仕事です。期限の十四日目は近づいてきます。砕くのは市の仕事、探すのはあなたの仕事です。
トゥーレ工房の口入れ三則
一、癖を隠して送り出さないこと。
二、送り先の仕事を自分の目で見ること。
三、返されたゴーレムは何度でも引き取ること。
登場キャスト
章立て
- 第1章十四日の札
- 第2章返された九番
- 第3章砕きの朝