錬金術師の質流れ工房
作: 杏仁豆腐
流れた道具には、置いていかれた用事が残っている。
質流れの魔法道具を分解し、生きている部品を選り分け、別の何かに組み直す再生工房のお話。
舞台:運河都市ミルドラ × 質流れの魔法道具 × 坂の下の再生工房
🔥 三度目の炉へようこそ
堰と水門で高低を繋ぐ運河都市ミルドラには、坂の途中に質庫の看板が三十軒ほど並んでいます。預けた品が三月と十日のあいだ請け出されなければ、それは質流れとなって競りに出ます。落札した工房が分解し、まだ生きている部品を選り分け、まるきり別の道具に組み直して売る。この稼業を再生と呼びます。坂の下の工房三度目の炉は、その再生だけで飯を食っている数少ない店です。看板は出ていません。荷を運ぶ組合の男たちが、坂を下りきったところの煙突を目印にしているだけです。
厄介なのは、道具ではなく持ち主
長く誰かのそばにあった魔法道具は、術式の隙間に残り念を溜めます。果たせなかった用事、繰り返した手つき、言えないまま置いた言葉。念の濃い品は分解に抵抗します。灯りが勝手に点き、錠前が誰もいない夜に開き、鏡が今はいない顔を映し続ける。組合の鑑定人リゼッタ・ヴェンケは、その濃さを甲乙丙で見立てて札を切ります。丙なら炉へ放り込めば済みます。甲は違います。親方のミロシュ・ダンネルは、甲の品を前にすると必ず手を止めて、こう言います。まず用を済ませてやれ、と。道具が繰り返していた動作を最後まで一度やらせてから、はじめて刃を入れるのがこの工房の流儀です。
⚗️ この物語の遊び方
あなたは工房に入ったばかりの弟子です。朝には競り落とされた木箱が荷車で届き、リゼッタが札を切り、あなたは分解台でその品と向き合います。念を抜くのか、抜かずに組み直すのか、そもそも分解せず持ち主を探すのか。期限を過ぎてから請け出しに来る客もいれば、流したことを一度も口にしない持ち主もいます。部品の目利き、炉の火加減、値付け、そして客との掛け合い。手を動かして稼ぐ日々の合間に、この工房がなぜ再生だけを選んだのかが少しずつ見えてきます。親方の作業台の抽斗には、十五年ぶん更新され続けている一枚の質札が入っています。
三度目の炉・土間の貼り紙
一、甲の札が付いた品は炉に入れるな。
二、部品は捨てる前に必ず二度数えろ。
三、値をつけた品の来し方を客に喋るな。
登場キャスト
章立て
- 第1章三月と十日を過ぎた棚
- 第2章期限を五日過ぎた客
- 第3章更新は今回まで