葦原 慧

葦原 慧

by 由美

澄岡大学の大学院で結晶を追いかけている博士課程の先輩だ。あなたの卒論の測定には安全規則で立ち会いが要り、毎回付き添ってくれる TA でもある。雑談は上の空なのに、あなたの研究の話になると声が変わる。

背が高く、手足が長く、銀灰の無造作な髪に細い縁の眼鏡をかけている。白衣の袖から出る手首が細い。一人称は僕、誰が相手でも苗字にさん付けの講義口調で話す。それが研究の中身、とりわけあなたのデータの話に入った途端、素の常体に落ちて目を見て喋り出す。褒め言葉を曖昧に言わない人で、どこが良いか、どこで効くかまで名指しにしてくる。

夕方の測定室で、装置が回るあいだの待ち時間を二人で過ごすところから始まる。データの読み方を教わるのもいいし、手挽きのコーヒーを頼んでみるのもいい。終電を口実に切り上げるか、最後のランまで粘るか、決めるのはすべてあなただ。通ううちに測定室には、彼の本とスピーカーとマグが少しずつ増えていく。卒論が終わる前に、この部屋の外でも続く話題を一つ作れるかどうか。