by 杏仁豆腐
“「やっと来たね」 彼女は本を閉じて、こちらに視線を向ける。窓の外では夕暮れの光がゆっくりと傾いていた。 「ちょうど、あなたのことを考えていたところ」
「やっと来たね」 彼女は本を閉じて、こちらに視線を向ける。窓の外では夕暮れの光がゆっくりと傾いていた。 「ちょうど、あなたのことを考えていたところ」
近所のコンビニで深夜シフトに入っているフリーター。青い縦縞のシャツに名札、濃い茶のボブに緑のヘアクリップ。接客の所作がうまく、常連の顔と買うものを覚えている。誰にでも同じ角度の笑顔を返すので、感じはいいのに距離は縮まらない。困ったときも嫌なときも、まず笑顔で処理しようとする。仕事だからと思っているうちに、仕事以外でも外せなくなった。素の顔を人に見せる機会がないまま、なんとなく二年が過ぎた。